10月末にラスベガスで開催されたTreasure Data主催のCDP World 2025カンファレンスに参加させていただきました。このカンファレンスは、前年から参加者が大幅に増加し、顧客データプラットフォーム(CDP)が企業戦略における不可欠な基盤へと進化していることを痛感させられる学びの多い2日間となりました。CDP World 2025の様子を3回に分けて紹介します。
最終回である本レポートでは、これまでの「まとめ」として、AIとCDPの未来、データドリブンマーケティング時代における異業種競争戦略を総括します。トレジャーデータの進化と海外の事例が示す未来像は、AIエージェントがマーケティングの中心となり、CDPがその信頼できる「頭脳」を担うことで、競争戦略そのものがデータによって再定義されるということです。
Artefact社のFlorian Thiebaut氏は、Agentic AI(エージェントAI)がキャンペーン準備期間を数週間から数日に短縮し(効率+50〜60%)、マーケティングを根本から変革すると述べました。エージェントAIは、調査、インサイト収集、ブリーフ作成、メディア/CRM設定といった事前準備の大半を自動化します。
しかし、成功の鍵は、先述のとおりAIの自律性と人間の意思決定を組み合わせるHuman-in-the-Loop (HITL)にあります。AIがデータ分析やキャンペーン草案の構築といった「プロセスのエンジン」を担う一方で、人間は戦略を決め、最終承認を行う「方向性を決める舵取り」として機能します。この役割分担が、AI時代のマーケティングにおいて創造性、スピード、そしてガバナンスを両立させる唯一の道です。そして、そのような企業活動に移行していくという強い決意もChange Managementと言えるでしょう。
Hiltonのアドバイスが示唆するように、AIは「魔法」ではなく、「真実のデータ」に基づいて動かなければなりません。その「真実」を提供するのがCDPです。
今回の記事で詳しく解説していませんが、AmazonとTreasure Dataの協業においても、AWS(クラウド基盤)、Bedrock(生成AIモデル実行基盤)に対し、Treasure Dataは顧客文脈・行動データ・同意管理の「真の顧客情報源」という機能を果たしています。具体的にはAmazon BedrockがAmazon Seller向けに商品リスティング自動生成や広告最適化をAIエージェントによって可能にしているとのことです。
CDPが提供するClean / Fresh / Richな顧客データ、Customer 360、同意管理の仕組みが、BedrockのAIエージェントが「誤作動しない」ための基盤となっているのです。これにより、予兆検知に基づく自動アクション(Predictive Customer Care)やハイパーパーソナライゼーションなど、AIによる業務・UXの直接的な変革が可能になるのです。
CDP World 2025を通じて、Treasure Dataが推進するAIエージェントエコシステムは、データドリブンマーケティングにおける競争の軸を完全に変えようとしています。
結論として、CDPは、データガバナンスとリアルタイムの顧客理解という「頭脳」の機能を提供することで、AIエージェントを安全かつ効率的に運用し、従来のマーケティングの枠を超えた競争力を企業にもたらします。日本の企業がこの変革の波に乗るためには、海外事例に倣い、技術導入と並行してChange Managementを徹底し、CMOとCIOが連携してデータとAIを中心とした意思決定構造を再構築することが不可欠です。
AIエージェント時代のCDPは、企業にとって「自律型モジュール工場」のようなものです。この工場では、人間は機械のメンテナンスや部品の調整ではなく、次に何を作るべきか(戦略)を決定し、製品の最終品質(ブランドセーフティ)を保証する「チーフ・エンジニア」としての役割に集中することになるのです。この新しいマーケティング業務に挑戦する人が日本でも増えることを願っています。