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顧客とつながる時代の「マーケティングの新しい基本」|トレジャーAI

作成者: Treasure AI|May 9, 2022 8:21:00 PM

デジタルイノベーションが加速した現代、企業が持つべき「新しい基本」としてのビジネスモデルとはどんなものなのか。

数多くの企業とともにカスタマーサクセスについて考えてきた株式会社顧客時間共同CEOの奥谷孝司氏と岩井琢磨氏が、新著『マーケティングの新しい基本』をもとに解説する。

※本記事は、トレジャーデータ株式会社が2022年2月に開催したウェビナーをもとに編集しました。

パート1(前編)

パート2(中編)

パート3(後編)

デジタル社会への過渡期に「マーケティングの基本」を再構築

奥谷氏と岩井氏の前著『世界最先端のマーケティング』が2018年に出版されてから4年。前回の本のテーマであったチャネルのシフト「OMO」はいまや前提となっている。さらに顧客と繋がるビジネスモデルとしての「D2C」、そしてそのモデルをまわしていくための戦略・組織・人材といった広範な事業システムのシフトである「DX」といったワードが次々に現れ、この2、3年で急速に進行した。

さまざまなビジネスを研究し、企業へのコンサルティングを進めてきた両氏は、最先端の事例にこそマーケティングの基本があると気付いたという。

マーケティングの「4P」の概念は、1960年代に米国のE.J.マッカーシーが提唱したものだ。登場から50年以上がたった現代ではデジタル化が進み、新しいフレームワークも生まれているが、『マーケティングの新しい基本(以下「本書」)』では「4P」をベースとして現代のマーケティングを捉えている。

コロナ禍は、デジタルイノベーションを大きく加速させた。何かが急に変わったというよりも、これまでの流れが進展したという見方が正しいだろう。
東京大学の森川博之教授によれば、1990年代後半から真のデジタル社会が到来するまで、40年ほどかかるという。2020年のコロナ禍はまさにその中間地点にあたる。

デジタルイノベーションはまだまだ過渡期にある。コロナ禍という混乱の中だからこそ、わかりやすく実践的なフレームワークが必要なのではないか?  そうした両氏の問題意識が本書には込められている。
デジタルイノベーションによって、顧客と企業が常につながることのできる時代になった」と岩井氏はいう。2040年の社会がどうなっているかはわからないが、この「つながる」という潮流は続いていくだろう。

「つながる価値」を最上位とするカスタマーバリューピラミッド

企業の視点からマーケットを見たとき、コロナ禍によって3つのシフトが起きているといえるだろう。

まずは「暮らし」のシフトだ。オンラインショッピングやWeb会議が定着したように、暮らしのあらゆる局面においてデジタルの活用が前提になっている。
暮らしがデジタルへシフトすることによって、生活者が価値を感じるもの=「顧客価値」もシフトした。
そして、企業の「競合」もシフトしている。顧客とつながる接点が変化することで、これまで競合しなかった異業種もライバルになる可能性があるのだ。

奥谷氏らは「エンゲージメント」という言葉を「企業と顧客がつながっている価値」であると定義し、「カスタマーバリューピラミッド」というフレームワークを導き出した。

商品やサービスが提供する「機能価値(Function Value)機能価値」を土台とし、その機能によって得られる「体験価値(Experience Value)」、さらに「つながっている価値(Engagement Value)」が上部に重なる。自社の顧客にとっての「3つの価値」は何かを考えることで、顧客に提供できる成果・価値が明確になる。

デジタルシフトによってあらゆる企業が顧客とつながりやすくなっているが、多くの企業はその機会を活かしきれていないと奥谷氏は指摘する。
一方で、D2Cが発想の基盤にある企業たちは、「顧客とつながり続けるためにはどうすればいいか」を考えることからスタートしているという。
商品やサービスありきでビジネスモデルを構築するのではなく、「つながっている価値(Engagement Value)」を提供し続けるために、「体験価値(Experience Value)」と「機能価値(Function Value)」を考えているのだ。そこに「マーケティングの新しい基本」があると両氏は語る。

ペロトンのカスタマーバリューピラミッド

「つながっている価値」に強みをもつ会社として岩井氏が紹介したのは、在宅フィットネスサービスを提供するペロトンだ。
ニューヨークにスタジオを持ち、スマートバイクを使ったフィットネスプログラムをオンライン配信している同社は、カリスマ的な人気を持つスターインストラクターを数多く抱えている。スターインストラクターの存在がペロトンの競争力の源泉であり、「つながっている価値」の実現のために彼らに大きく投資を行っているのが特徴だ。

ペロトンのモデルをカスタマーバリューピラミッドとして解釈すると、下記のようになる。

同社の「機能価値」は、オンデマンドのフィットネスだ。いつでも受講できるオンラインのフィットネス・プログラムと、モニターと連動するスマートバイクが用意されている。

「体験価値」は、同社が掲げる「To be the best version」という言葉が該当する。顧客にとってベストな心身を常に維持するというメッセージだ。その実現のため、利用しやすいサブスクリプション型の課金モデルを採用している。また、顧客にあわせて次のプログラムを提案するレコメンデーション・システムも用意されている。

「つながっている価値」には、人々を励ますという意味の「Empowering People」という言葉があてはまる。同社のインストラクターの人気が高いのは、画面の向こうから顧客を励まし続けてくれるからだ。顧客はインストラクターに共感し、ファンになっていく。
ユーザー同士がつながる仕組みもあり、仲間が頑張っていることがわかって自分も励まされるように設計されている。

カスタマーバリューピラミッドのポイントは、三角形がすべて内包された図になっている点にある。つながり・体験・機能をバラバラに提供するのではなく、それぞれの価値が連動していることが重要だ。

ペロトンは顧客とつながる手段としてスマートバイクを提供しているが、スマートバイクの会社ではなく、顧客の健康とつながりを常に維持していく会社であることを重視している。これまでは、フィットネス業界やアパレル業界というように、機能価値でビジネスがカテゴライズされてきたが、今後はこの発想は変化する。ペロトンはバイクやアパレルはいつか模倣される前提で、「つながっている価値」を起点にあらゆるサービス提供が行われている。前述のように「競合」が変わり、異業種間の競争も起こりやすくなっている中での、まさにマーケティングの新しい基本といえる。

顧客起点で再構築したエンゲージメント4P

「5年後に今と同じビジネスを行っている企業は消えている」と、マーケティングの大家フィリップ・コトラー教授が言ったのは2020年のこと。変化する時代において、マーケティングの「4P」にもアップデートが求められている。

プロダクト(Product)を起点として、よい商品を作り、競争力のある価格(Price)、よいコミュニケーション(Promotion)、小売店などの販売チャネルへの配荷(Place)を行うという流れが4Pのモデルだ。
奥谷氏らの提唱する「エンゲージメント4P(E4P)」のフレームワークは、この流れをPlaceを起点として再構築する。顧客はPlaceに存在するからだ。

生活者が十分にモノを持っていない状態では、プロダクト起点のマーケティングでもよかったかもしれない。しかしモノが溢れる現代では、顧客が何を求めているかをまず考えなくてはならない。

また、デジタル化によって、顧客とつながる場所(Place)は店舗だけでなくオンラインにも存在するようになった。
顧客接点を起点とし、データドリブンで顧客を理解すること、マーケティングとCRMが常に同期していることが、現代のマーケティングには重要であると奥谷氏は指摘する。

つながる理由を提供し続けるYAMAPのモデル

E4Pのモデルが構築されていることは、企業にとって大きな強みになる。日本企業の実例として、岩井氏はYAMAP(ヤマップ)を挙げた。

YAMAPは、オフライン環境でも現在地を確認できる登山地図GPSアプリを提供する企業だ。山中で道に迷ったり遭難するリスクを下げ、安心安全な登山を価値として提供している。

一般には、YAMAPは登山アプリの会社だと見られているだろう。しかし、同社のビジネスモデルにおいてアプリは要素のひとつにすぎない。公式オンラインストアである「YAMAP STORE」やアプリを顧客接点として、ユーザー同士のコミュニティを構築し、登山やアウトドア活動の活性化という循環を、YAMAPは実現しようとしている。

アプリのユーザーは地図機能を利用するだけでなく、活動日記を書いてシェアすることでユーザー間での交流ができる。アプリ自体がコミュニティの場になっており、仲間と「つながり続ける理由」が用意されているのだ。

注目すべき施策は、循環型コミュニティポイント「DOMO」という仕組みだ。
ユーザーは活動日記の公開などからDOMOを受け取る。DOMOはサービス側から提供されるだけでなく、ユーザー間で感謝を伝えるために贈り合うこともできる。
貯まったDOMOは植林や登山道整備などの支援に使える仕組みで、実際の支援活動の原資はYAMAPが負担する。ユーザーにとっては、山に登っていなくても、YAMAPを通じて大好きな山とのつながりを持てるというわけだ。

安心安全な登山を支援する地図アプリとしての機能を提供し(機能価値)、体験をリッチ化するために活動日記やコミュニティを用意し(体験価値)、その先には、顧客が好きな山の環境づくりに貢献できることを、つながる価値として提供する。YAMAPは、3つの価値を内包したカスタマーバリューピラミッドを完成させている。
YAMAPの掲げる「人と山をつなぐ」というビジョンは、そのまま同社の「顧客価値」としてE4Pの中核を担っている。

世界の環境変化は加速している。マーケティング理論の正解を追い求めるのではなく、現代のビジネスを見つめる「レンズ」のひとつとして本書を活用し、いち早く行動を実践してほしいと岩井氏は語った。

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