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あらためて「DX」とは? – DXを紐解く2つの「CX」|トレジャーAI

作成者: Treasure AI|May 14, 2021 6:00:00 PM

今やDXデジタルトランスフォーメーションは、聞かない日がないほど一般的に使われる言葉になりました。

Googleトレンドによると、全世界においてここ5年、6年で急速に英語のDigital Transformationの検索数が増えてきています。日本語のデジタルトランスフォーメーションを見ると、この1年で急増しており、いわゆるDXへの関心が急拡大しています。

(2021年2月10日時点でのGoogleトレンドグラフ)

一方で、その本質を理解することが難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。そこで、この記事ではそもそもDXとは何か?、DXの理解に欠かせない2つのCXを通じて紐解きます。

※本記事はトレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA15」(2021年2月開催)のセッション『あらためて「DX」とは? – DXを紐解く2つの「CX」』をもとに編集しました。

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DXの理解を難しくしている2つの理由

DXの理解を難しくしている理由の一つめは、定義の範囲の広さです。DXにはいろいろな定義があります。たとえば、日本で2018年に経済産業省が発行したDX推進ガイドライン企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することと、かなり広く定義しています。

スイスのビジネススクールIMDは、全世界1,000社以上を対象に調査研究をした知見に基づいてデジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善することと定義しています。学術的にもさまざまな定義に基づいて、2000年代半ばからデジタルトランスフォーメーションに関する研究が進展しています。

デジタルトランスフォーメーションの定義の範囲が広範にわたることから、同じデジタルトランスフォーメーションという言葉でも、実はその一部だけを捉えていたり、意味するところが違っていたり、逆に同じことを異なる言葉で表現していたりすることがあります。

DXの理解を難しくしている理由の二つめは、用語を使う側の解釈の幅です。たとえば、似た概念にデジタイゼーションデジタライゼーションがありますが、それぞれ定義を簡単に説明すると以下のとおりです。

また、デジタル化という言葉もあります。デジタル化という言葉が、デジタイゼーションの意味で使われることもあれば、デジタライゼーションデジタルトランスフォーメーションの意味で用いられることもあります。さらに、その全てをDXと呼んでいることもあります。

用語としての定義の範囲と、その用語を使用する側の解釈によって、その理解を難しくしてしまっているのではないでしょうか。

DXとはデジタルでありトランスフォーメーションであること

DXをできるだけ簡略化して、整理をするとこのような図になるのではないでしょうか。あたりまえですが、デジタルトランスフォーメーションは、D:デジタルX:トランスフォーメーションのコンセプトが合わさっているわけです。

デジタルでありトランスフォーメーションであるものがデジタルトランスフォーメーションです。逆に、デジタルだけれどもトランスフォーメーションではない、または、トランスフォーメーションだけれどもデジタルではない場合はDXたりえないことになります。

デジタルだけれどもトランスフォーメーションではないというのは、最近よく耳にするハンコを電子署名に変えましょうなどがその例です。それに伴う仕事の進め方や意思決定の方法などの変革がなければDXとはいえないでしょう。また、デジタルを必ずしも前提としないトランスフォーメーションもあります。たとえば、これまで事業部制で進めていたビジネスをカンパニー制にする、あるいは年功序列型でやっていたものを成果報酬型に変える、などは、組織変革ではあるけれども必ずしもデジタルではありません。デジタルトランスフォーメーションを捉えていこうとすると、デジタルを前提とし、トランスフォーメーションが伴うことが重要になります。

DXを紐解くための2つのCX

DXがバズワード化することの一番の懸念は、DX自体が目的化してしまうことではないかと思います。しかし、DXはあくまでも手段です。では、何を目的とし、何を推進すべきなのでしょうか。2つのCXというキーワードを通じて考えてみたいと思います。

「DX For CX(Customer Experience)」

デジタルトランスフォーメーションを何のために実行するかというと、一つ目のCXであるカスタマー・エクスペリエンス、つまり顧客体験のためです。お客様をはじめとするさまざまなステイクホルダーと常時つながりながら、共創コ・クリエーションを通じて、今までにない新しい顧客体験を実現することが、デジタルトランスフォーメーションの目的であると考えます。

「DX By CX (Corporate Transformation)」

そして、本当の意味でこれまでにない顧客体験をつくろうとすると、縦割りになっている組織のあり方や、仕事の進め方、あるいは意思決定の方法、業績評価の仕組みなどを変える必要が生じます。そこで二つ目のCXコーポレート・トランスフォーメーション、つまり企業変革が必要になります。

一つ目のCXカスタマー・エクスペリエンス、二つ目のCXコーポレート・トランスフォーメーションが伴って真のDXの実現につながると考えます。

これまでこれからが混在するハイブリッド時代

まずはDX For CXの話から入っていきましょう。

コロナ禍以前から、私たちは第4次産業革命の真っ只中に生きています。第1次、2次、3次産業革命時と比べて、第4次産業革命ではその前後で起きている経済社会の本質的な変化が何であるかについてのコンセンサスがまだ確立しているわけではありません。

第1次産業革命では、蒸気機関の利用が広がったその前後では、社会、産業、企業のあり方が大きく変わりました。第2次産業革命は電気のビフォー・アフターでした。第3次産業革命はコンピュータ技術のビフォー・アフターでした。しかし、第4次産業革命に関しては、私たち自身がまさにその真っ只中にいるために、本質的に起きていることの捉え方が人によってまちまちです。

また、ある日を境にして、昨日までは第3次産業革命が続いていて、今日からは第4次産業革命が始まる、となるわけではありません。今、私たちが生きている時代は、第3次産業革命によって形成された社会・産業・企業のロジックがそのまま動き続けている中で、第4次産業革命が始動しているハイブリッド状態、または、メッシュ状態になっているわけです。モザイク状態といってもいいのかもしれません。

ここに、既存事業を推進しながら、新規事業を創出しなければならない、という経営課題が生じます。以前、PLAZMAにも登壇された、早稲田大学の入山章栄さんと経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦さんが解説されていて、日本でも非常に大きな注目を浴びているチャールズ・オライリーさんとマイケル・タシュマンさんの共著による両利きの経営という本があります。同書で紹介されているように、知の深化という自身・自社の持つ一定分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく行為と、知の探索という自身・自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうとする行為、このどちらか一方ではなく、両方が必要である。これが、ハイブリッド時代を生きる私たちが置かれている状況です。

早稲田大学の入山先生が登壇されたセッションはこちらからご覧いただけます。

新しい顧客体験をつくるために、かけているレンズに気づこう

こうした変化が起きている中で、新しい顧客体験の実現をDXの目的として据えるとき、私たちが無意識に置いているさまざまな前提、つまりかけているレンズに気付き、そのレンズを外したり、かけたりしながら、モザイク状態の中で取り組まなければなりません。それが、今私たちが置かれている状況ではないかと思います。

まず、価値づくりのロジックが根本的に変わりつつあることを念頭に置く必要があります。たとえば、TechCrunchのエディター、トム・グッドウィンの2015年の言葉にあるように、

これまでにない価値づくりのロジックに基づく取り組みがどんどん行われるようになってきていて、注目が集まり、お金が集まり、人が集まり、データが集まるという状況が起きているわけです。

慣れ親しんできた「レンズ」①:バリューチェーン

私たちが価値づくりについて考えるとき、ほんの少し前まで、バリューチェーン的な発想で考えることが多かったと思います。たとえば、タクシー会社を始めようと思うと、何よりもまず車両を購入して保有し、その次に運転手を雇用しないとタクシー事業は始められないと思い込んでいました。ホテル事業を始めようと思ったら、まず土地を購入し、建物を建設し、従業員を雇用しないと宿泊サービスは提供できないと思っていました。しかし、そのような発想に基づかない、新たな価値づくりのロジックに基づく事業が行われるようになってきています。

バリューチェーンはマイケル・ポーターさんが1985年に競争優位の戦略という本の中で提唱したフレームワークです。いわば、35年前に作ったレンズをかけて、今の世の中を見ているようなものです。でもそのレンズは、35年前には当たり前すぎて、あえて問う必要がなかったようなことを前提としてつくられたレンズであることに注意する必要があります。

一つは価値づくりは企業が行うものであるという前提です。だから、企業組織の中の活動を中心に描いているわけです。もう一つは価値づくりには終点があるという前提です。そのため、その終点においてマージン利益が実現したその先は空白になっています。そこから先には価値がつくられていないという前提を置いているともいえます。

しかし今や、私たちはお客様と常につながりながら、お客様と一緒に価値をつくることができるような環境にあります。また、お客様もさまざまな企業活動に参加しつつあります。35年物のレンズをかけたまま、なおかつ自分たちがレンズをかけていること自体に気づいていない状態だと、レンズをかけて見える世界がある一方で、見えなくなる世界が広がり始めているのではないでしょうか。

誤解しないでいただきたいのは、今でもバリューチェーンが非常に有効な局面もあります。しかし、そのレンズだと見えなくなるという環境も広がりつつあります。その両方が混在するメッシュ状態にあるので、気をつけなければなりません。

慣れ親しんできた「レンズ」②:ファイブフォース分析

また、戦略立案のプロセスで必出する、これも同じくマイケル・ポーターさんのファイブフォース分析をみてみましょう。まず業界の構造を分析し、その構造を理解した上で自分たちの競争優位が構築できるようなポジショニングを考えましょう、という分析手法です。1980年に競争の戦略という本で提唱されました。

ここでも、40年前には当たり前すぎて、問う必要がなかったことが大きな前提になっています。それは、業界が定義できるという前提です。まずは業界を定義したうえで、戦略立案のための分析作業を進めていきましょう、という考え方です。しかし今は、業界が定義できないようなところにこそ、いろいろな機会が生まれています。たとえば、アップルは何業界で競争しているのでしょう? Googleはどうでしょう? 業界が定義できないようなところで、さまざまな価値づくりの機会が生まれています。レンズをかけて見える世界がある一方で、逆に見えなくなった世界も広がってはいないでしょうか。

慣れ親しんできた「レンズ」③:限界費用

経済学においても同じような前提を見つけることができます。たとえば、市場の価格メカニズムを通じて実現する 完全競争こそが、社会としては最も望ましいとされています。昨日まで100万個製品を作っていた企業が100万1個目の製品を作るとき、その100万1個目の製品にかかるコストが限界費用です。完全競争の状態においては、限界費用をちょうど賄えるレベルで価格が設定できる企業は生き残り、逆に限界費用が価格を上回ってしまう企業は市場から撤退せざるを得なくなります。

完全競争の実現を目指すために、さまざまな法律や制度、たとえば、独占禁止法や公正取引委員会という仕組みを構築することで社会全体の効用を最大化しよう、という話になっています。ただ、ここにも大きな前提が置かれていることに気づく必要があります。それは限界費用がゼロではないという前提です。

限界費用がゼロではないことを前提に、それを上回るところで価格が設定され、無数の企業が市場に参入し、アダム・スミスの言うところの神の見えざる手が働き、完全競争に至る。しかし、第4次産業革命下においては限界費用が限りなくゼロになるということがさまざまなところで起きはじめています。たとえば、今この瞬間にもFacebookでは世界中でコンテンツが作られていますが、Facebook側でかかっている1コンテンツあたりのコストは限りなくゼロに近いです。Uberがお客様を乗せて移動するサービスを提供したとき、Uberの限界費用もゼロに近づいています。理論上、限界費用がゼロになると価格もゼロになるので、経済の仕組みをうまく説明できなくなってしまう、という課題を抱えています。

今まで私たちが学んできたことだから、あるいはよく知っているから、使い慣れているからという理由だけで慣れ親しんだレンズだけをかけていると、見るべきものも見えなくなってしまう可能性がある時代に生きています。これが、DXを進めようとするときに最初に気を付けるべきことではないか、と思います。

レンズをかけ替え、視点を広げよう

ここからは、どういうレンズをかけるべきなのかという話をしたいと思います。たとえばバリューチェーンというレンズはモノ中心論理のレンズの一つです。ここではレンズ1と呼びましょう。企業が価値をつくり、お客様に提供します。企業から見ると販売時点、お客様から見ると購買時点において両者は接点を持ちますが、そこから先は企業がつくった価値をお客様が消費していく、という世界観です。

これに対して、価値づくりはそこでは終わらないという世界観がレンズ2です。価値づくりはモノやサービスを販売するところで終わらず、その後もずっと続く。しかも、そこでつくられる価値は、企業だけがつくっている価値ではなく、お客様の行動が伴って一緒につくられていく。価値が共に創られるという意味での共創コ・クリエーションとなります。

販売時点で実現する価値のことを、市場交換経済を通じてお客様が対価を払うその瞬間に最大化する価値という意味で交換価値バリュー・イン・エクスチェンジといいます。
それに対して、使用段階において企業の活動とお客様の行動が組み合わさって共創される価値のことを使用価値といったり、お客様が実感する価値はお客様が置かれている文脈に依存するという意味で文脈価値といったりします。

このように、レンズをかけ替えることによって、視点を広げることができるようになります。今までにない新しい顧客価値を実現するというDXの目的を考えるとき、レンズをかけ替えることが重要になると思います。

顧客接点は多層化・個別化・常時化する

また、顧客接点はますます多層化し、さらに個別化されつつあることも注目に値します。今までは、たとえばテレビ広告というコンテンツは、テレビというデバイス上で、テレビ会社というメディアを通じて、不特定多数のオーディエンスに提供されていました。コンテンツ1 対デバイス1 対メディア1 対オーディエンスの関係性です。

それが今はデジタル技術の発展によって、同じ広告コンテンツが、テレビ・パソコン・スマホ・タブレットなど複数のデバイス上で、さまざまなメディアを通じて、常時接続状態にあるお客様一人ひとりに、必要なときに必要な状況において提供されるようになっています。つまりコンテンツ1 対デバイス多 対メディア多 対オーディエンスになってきたといえます。

マーケティングの観点から見ると、お客様に認知してもらい、興味を持ってもらい、購買行動をとってもらうという、いわゆるAIDAモデルAIDMAモデルの終点では顧客関係は終わらず、お客様とその後も常につながりながら関係構築を図ることが重要になっています。また、お客様はその過程において、他のお客様にさまざまなことをシェアします。製品やサービスの購買後にその使用体験を共有するという従来型のシェアにとどまらず、お客様は常に自らの認知や興味、欲求、行動意図、実際の行動などさまざまな事柄を意識的にも無意識的にも共有しているのです。

こうした状況になってくると、価値をつくるのは企業だけではなくなってきます。お客様が持っている知識、スキルやセンスなどの資源と、企業が保有したりアクセスしたりすることができる資源とが組み合わさることで、価値が共創されていきます。価値づくりを、バリューチェーンのように、終点を目指して進める組織内活動の連鎖としてとらえるのではなく、夜空を見上げて星と星をつないで意味を見出し星座をつくるようなバリュー・コンステレーションと呼ばれるような視点でとらえることが重要になってきています。

レンズ1とレンズ2を外したりかけたりすることによって、全く同じビジネスでも、お客様に提供しうる顧客価値に広がりが出てきます。

ケース1:小松製作所のKOMTRAXコムトラックス

株式会社小松製作所以下、コマツが開発した機械稼働管理システムKOMTRAXコムトラックスでは、お客様である建設会社にショベルカーを販売した後に、IoTセンサーでショベルカーの稼働状況を把握するこが可能です。たとえば、〇月〇日、この建設現場XのショベルカーYは、朝8時にエンジンがかかり、10時間エンジンがついていたけれど、駆動部分が動いていた時間は合計3時間であるということがリアルタイムでわかります。つまり、10-3=7時間はエンジンがつけっぱなしでアイドリングしている、ということがわかるのです。

メーカーであるコマツが、お客様である建設会社にリアルタイムでこの情報を共有することによって、お客様の建設現場のマネジメントに活用することができます。その結果、現場でかかる燃料費用を大幅に削減することに寄与するといった価値づくりが可能になります。
従来のバリューチェーンでは価値づくりの終点と考えられてきた販売時点のその先で、お客様がその製品を使用するという行動と、コマツが展開するKOMTRAXという活動が組み合わさることによって、価値共創が継続して行われることになります。

ケース2:ナイキのナイキプラス

ナイキのシューズの素材、機能、性能で交換価値を最大化するという話だけではなく、ナイキのシューズを買ったお客様がどこをどうやって走ったかという履歴が残り、世界中のナイキのランナーと共有することによって、新しい価値が生まれます。たとえば、今まで行ったことのない都市に出張で訪れ、ホテルにチェックインをして、その周辺を走りたいなと思ったときに、その街に住んでいる人や、あるいはそのホテルに泊まった人がどのランニングコースを走ったのかという情報を参照することができれば、自分にとって大きな価値になります。これは、ナイキだけが一方的につくっている価値ではなく、ナイキとお客様が一緒に共創している価値ととらえることができます。

その他のケース

一方向の気象庁型の天気予報に対して、双方向のウェザーニューズ型の気象情報サービスもその例です。あるいは、従来型のカーナビに対して、Wazeウェイズというソーシャルカーナビゲーションでは、ドライバーが自分の運転履歴に基づいてマップを書き換えることができたり、今通ったところで警察がスピード違反の取締りをしていたという情報をリアルタイムで共有したりすることで、ドライバー同士の価値共創が行われていたりします。

このように、全く同じビジネスでも、レンズをかけ替えることで、お客様に提供しうる顧客体験の捉え方に広がりが出てきます。レンズ1型で一方向的に企業が顧客に価値をつくるという世界観だけで新しい顧客体験をとらえるのではなく、お客様と常につながり続ける環境において、お客様にとってもらうさまざまな行動と自社の活動を組み合わせることで価値共創をはかるという発想でとらえてみてはいかがでしょうか。それにより、マネタイゼーションの選択肢もそれだけ増えることになります。実は、これが次に紹介するレンズ3になります。

価値共創のアクター参画者が増えると価値づくりの範囲が広がる

たとえばAirbnbは、部屋を借りる側と貸す側という2サイドでビジネスを始めましたが、一時期、両者の間で色々なトラブルが起きました。貸した後に部屋に帰ってきたら家がグチャグチャになっていた、貴重品が盗まれてしまった、帰ってきても出ていってくれないので困る、などです。そこで、保険会社という第3のアクター参画者が加わりました。また、Airbnbの物件の稼働状況がわかるリアルタイムデータを地域のレストランや商店などと共有することで送客や集客を図り、第4のアクターを加えることになります。さらには、観光産業という第5のアクターと連携する、というように発展します。こうした、それぞれの参画者と異なる種類の価値を共創していくと、それぞれのアクターに課金する・しないの選択肢と、どう課金するのかという選択肢が出てきます。

これは、AirbnbやUberといった話だけに留まりません。たとえば、ネスレ日本が始めたネスカフェアンバサダーというプログラムがあります。累計40万人以上の方が参加したといいます。自分のオフィスにバリスタマシーンを置き、同僚がカプセルを使ってコーヒー飲むと数十円を課金するというディストリビューター制度です。数年前にはこのバリスタマシーンにセンサーが入り、ネットワーク化しました。そして、ネットワーク化したこのプラットフォームを自分たちの競合になるかもしれない企業にオープン化します。

たとえば、ファンケルはケールとフルーツの入ったスムージーのカプセルやコラーゲン配合のミルク飲料のカプセルをネスカフェアンバサダーを通じて提供しています。ここでは、ネスカフェアンバサダーを、2サイドのプラットフォームとしてみることができます。一方は、最終消費者であるアンバサダーやアンバサダーの同僚の皆さん。もう一方は、ファンケルのような協力業者です。従来であれば競合になるかもしれない企業を協力業者化し、課金対象化し、顧客化しているともいえます。

今までにない顧客体験をつくろうとするときに、レンズ1をかけたままだと価値創造と価値獲得の選択肢を交換価値 × 交換価値という中だけで考えることになり、知らない間に視野狭窄に陥ります。

レンズ2をかけると、お客様に実感していただく価値は交換価値使用価値か、その両方か、また、お客様に支払っていただく課金の対象も、交換価値に課金するのか、使用価値に課金するのか、両方に課金するのか、という複数の選択肢が出てきます。

さらに、レンズ3をかけて、サイドを複数にすると、2×2のマトリックスがサイドの数だけ掛け算になっていきます。このエリアで価値創造をして、このエリアで価値獲得しようという創造的に組み合わせることで、新しい顧客体験をつくり出す可能性が広がります。

ポストデジタル仕様で顧客体験を捉えよう

皆さんは今どんなレンズをかけて、DXの目的である顧客価値、あるいは顧客体験をお考えになっているでしょうか。

DXを始める前に、レンズがポストデジタル仕様になっているかという問いを、今こそ自問すべきです。ポストデジタルは、この10年ほどで文学や芸術の世界で進んできた議論ですが、この1-2年ほどの間にビジネスの分野にも広がりました。藤井保文さんと尾原和啓さんの共著によるアフターデジタルもその中のひとつです。

藤井保文さんが登壇されたセッションはこちらからご覧いただけます。

 

リアルがデフォルトで、そこにデジタルを加えていくというのがビフォアデジタルです。しかし今は、基本的にスマートフォンを持って24時間生活していて、寝ているときもスマホがすぐ横にあるいう意味では、24時間ずっとデジタルのすぐ横で生きているわけです。ならば、デジタルをデフォルトにした上でその中でどうリアルを生かすのか、という順序で物事を考えた方がいいのではないか、というのがアフターデジタルへの発想の転換です。

私たちの周りにコネクテッドなデバイスが普及すればするほど、アフターデジタルがあたりまえになります。
アナログのカメラがデジタルカメラに置き換わったのは、今から十数年前の話です。その後、デジタルカメラも数年前に次のデジタルデバイスに置き換わっています。皆様がお持ちのスマートフォンです。このデジタルがデジタルに置き換わるときには、アナログがデジタルに置き換わる以上のことが起きています。

折れ線グラフのグレーがアナログカメラ、青がデジタルカメラ、オレンジがスマホです。このグラフは、実はより大きなグラフの一部で、もともとのグラフは右のようになっています。オレンジの部分が実は十数倍の大きさなのです。デジタルがデジタルに置き換わるときには、そこにさらにスケールとスピードが伴っています。

その結果、そのデバイスを使う人間の行動は拡大の一途をたどっています。10年、20年間で比べて圧倒的に写真を撮る回数は増えていますし、それを共有する対象は世界中に広がり、全く見ず知らずの人と写真を共有するのがあたりまえになりました。そうして、データが私たちの周りで溢れかえっていて、私たちが日常生活で知らない間にとっている行動がそれに寄与している。これが、今の状況です。

とGoogleのエリック・シュミットさんが言ったのが、実は今から10年前です。この5ヘキサバイトのデータは、今は数時間や数分間のうちに作られているかもしれません。

よくデータは新しい石油だと言われますが、その新しい石油を作っているのは企業ではなく、実は私たち自身です。私たちが普段の日常生活を送るだけでどんどんデータを生み出しています。また、この新しい石油は、これまでの石油とはまた違った特徴を持っています。石油は使えば使うほどなくなる一方ですが、データは使えば使うほどなくならないどころか、価値が向上することさえあります。そのため、これまでとは異なるロジックに基づいて、これからのDXとその目的である顧客体験を捉える必要があります。

新しい顧客体験をポストデジタルの視点でとらえることの重要性を象徴的に示すのがこの写真です。

左側がスペースシャトルのコックピットです。従来型のコックピットに、デジタル技術を付け足し続けています。これに対して右側はデジタルが大前提にあります。これは宇宙飛行士の野口聡一さんがいままさに宇宙飛行をしているSpace Xのドラゴンのコックピットです。デジタルをデフォルトとしてリアルを生かそうという発想で取り組むと、こうも仕様が異なることになります。

皆さんに問いかけたいのは、皆さんがいまこの瞬間にかけているレンズについてです。そもそもレンズをかけてらっしゃるってことに気づいていらっしゃいますでしょうか?ポストデジタル準備OKでしょうか?ポストコロナ準備はOKですか?。ご自身を10段階で自己評価すると、何点をつけますか。また、皆さんの周りを評価すると、どうでしょう。

あらためて、DXとは何か?を考えてみようとする方々の多くは、ご自身の意識としてポストデジタルの準備ができた上で、DXに取り組んでおられると思います。しかし、実際にDXを本気でやろう、スケール化しよう、結果を出そうと思ったりすると、皆さんの周りに仲間をつくっていく必要があります。しかも、その仲間づくりは組織の中だけではなく、組織の外にいらっしゃるお客様や協力業者も含めて仲間にしていく必要があります。

そのときにすべきことがDX by CX (Corporate Transformation)の話となります。二つ目のCX、すなわち企業変革です。ここから先は、SUBARUの小川秀樹さん、ストライプインターナショナルの榎本一樹さん、トレジャーデータの堀内健后さんのお話をお伺いしながら、さらに深くDXについて考えていきたいと思います。

<スピーカープロフィール>