社内に散在する様々なデータを統合し、有益な情報として活用することで業務の最適化を生み出すこと、顧客に関する様々なデータを多角的に活用し、効果的なデジタルマーケティングを実現すること。こうしたデータドリブンな業務推進は、もはや多くの企業にとって当然の選択肢となっているが、昨今はAIの発達によってデータ活用そのものが飛躍的な進化を遂げ、データドリブンも高度化を実現している。
では、具体的にAIの活用において先進的な企業は、データ基盤であるTreasure Data CDPとAIを組み合わせることによって、どのような価値を生み出しているのだろうか。日本電気株式会社 AIテクノロジーサービス事業部門 AIビジネス・ストラテジー統括部 AI戦略開発グループ ディレクターの長城沙樹氏が語った。
長城氏がまず課題提起したのは、AIの活用にあたっての“理想と現実”だ。AIの活用がこれからの時代に欠かせないことはわかっている。AIが業務のさらなる効率化に有効であることもわかっている。しかし、実際のところAIをどのように活用すればいいのかわからない。こうしたAIに対する期待と現実のギャップを感じることは「決して特別なことではない」と長城氏は語る。
実際、ある調査結果によると、生成AIを業務に活用している企業の経営者の約4割が「期待した効果を得られていない」と考えているという。加えて別の調査では、生成AIの導入効果について「期待を下回る」と回答した割合は、米国と比較して14ポイントも高いのだという。つまり、AIを導入しても高い満足度が実現できているというわけではないのだ。
なぜ、このような期待と現実のギャップが生まれてしまうのか。これまでデータサイエンティストとして様々な企業のDX推進を手掛けてきた長城氏は、「AIの活用は単なる導入だけでなく、業務や経営への定着、そして価値創造までサポートする必要がある。しかし、特に日本企業の中にはこうした一連の流れが達成できていないケースが多いのではないか」と提起する。
こうした課題に対して、つまりビジネスにおけるAI活用を業務の現場に定着させ、新たな価値を創造するためには、なにが必要なのか。ここから、長城氏はAI分野におけるNECの様々な取り組みを紹介しながら提案した。
1950年代に初めて「人工知能」という概念が登場し、およそ75年の歴史のあるAI。長城氏によると、1899年に創業し日本における情報技術の歴史を作ってきたNECは、1950年代のAI黎明期からすでにAIの研究や技術開発に取り組んできたという。1971年にはAIによる文字認識技術を活用した全自動郵便処理システムを開発。また顔認証技術も世界トップクラスの精度を誇り、空港のセキュリティシステムなどに導入されてきた。そして、2023年には自社開発の生成AI「cotomi」を開発し、リリース。現在は、「cotomi」を中核としたAI領域と、国家安全保障レベルの要求にも応える高度な情報セキュリティ領域を両輪にして、価値を提供しているという。
では、このBluStellarはどのような点を着眼点として企業の価値創造をサポートしているのか。長城氏は、BluStellarを通じて顧客企業と目指す価値=経営アジェンダを「社会とビジネスのイノベーション」「顧客体験変革」「業務変革」「組織人材変革」「デジタルプラットフォーム変革」という5つと定義した上で、その実現を支える要素として「ビジネスモデル」「テクノロジー」「組織/人材」という3つを挙げた。
そして、このBluStellarが目指す変革において、現在欠かせないものとなっているのが、「+AI」という要素。社会や企業のあらゆる課題解決にAIを積極的に活用し、変革を生み出そうという考え方だ。「NECは、AIによる自動化・自立化・標準化をBluStellarとして提供し、社会価値の創造をリードする会社=Value Driverへと変革を進めている」と長城氏は語る。そして、この変革を支えるコアとなるものが、Agentic AI(エージェント型AI)という技術だという。
一般的な生成AIは、例えば文章の要約や自動生成、外国語の翻訳など業務のなかの具体的なタスクを効率的に処理するために活用されてきた。しかし、使用者のリクエストに対して成果物を出力するシンプルな生成AIの場合、使用者がどのようなリクエストをするかによって成果物の出来栄えに大きな違いが生まれてしまい、使用者がいかにして上手にリクエストできるかが活用のカギとなっていた。しかし、Agentic AIでは、曖昧なリクエストに対して目的に応じてAIが自動的にタスクを分解。そして適切な情報源を参照することによって的確にリクエストに応えることが可能なのだという。
このAgentic AIが実際に業務プロセスに組み込まれると、どのような変革が生まれるのか。長城氏は具体的な事例を挙げて紹介した。紹介されたのは、クラフトビールを手掛けるCOEDO BREWERYが製造する「人生醸造craft」という商品のリニューアルだ。
長城氏によると、この商品はCOEDO BREWERYのビール職人がAgentic AIを活用してリニューアルしたのだそうで、具体的にはビール職人がAgentic AIに対して作りたいビールのイメージを伝えることで、Agentic AIはそのイメージを分解して目的を達成するために様々な情報を参照しながら、最適なレシピを自律的に作成していったという。例えば、「20代の日本人に受け入れられるクラフトビールを作りたい」というイメージに対しては、20代の日本人のペルソナを分析してレシピ情報を検索しながら最適なレシピ案を作成していくといった具合だ。
さらに、Agentic AIの活用の特徴的な部分はここからにある。従来型のAI活用であれば出力された結果を見て終わりになるが、Agentic AIではAIが出力した結果をビール職人が見て、どの要素を修正するか、どの要素を残して重視するかなどのフィードバックを行うことで、Agentic AIと協議・調整を進めていく。そのような一連のやりとりを通じて新しいレシピ案が固まっていき、リニューアルが実現したのだ。
長城氏はさらにもうひとつの事例を挙げた。それは、NECが開発したコンタクトセンター向けの業務効率化ソリューションである「NEC Communication Agent」だ。
コンタクトセンターは、顧客に対応するコミュニケーターの人材不足によって問い合わせに対する待ち時間が増えてしまったり、それによって顧客が離反する機会損失が生まれてしまうといった課題を慢性的に抱えている。人材不足を解消しようにも、労働人口の減少や人件費の高騰などによって課題解決が困難になっている状況だ。そこで最近ではバーチャルな問い合わせ窓口としてAIによるチャットボットの活用も進んでいるが、長城氏によるとチャットボットは単純な質疑にした対応できなかったり、チャットボットに適切な回答をさせるための学習・メンテナンスに非常に多くの工数が必要になるなどの課題があったのだという。
こうした課題に対して、NEC Communication Agentでは生成AIやAgentic AIを活用して顧客の問い合わせに答えるために参照するデータベースの学習・メンテナンスに必要な工数を大幅に削減。加えて、電話対応ではNECの高度な音声認識技術を活用することによって顧客の問い合わせ内容を深く理解し、自然で柔軟な顧客対応を実現しているという。このNEC Communication AgentはNECの顧客窓口はもちろん、製造業、観光地、自治体などでも導入されているのだそうだ。
こうした事例を踏まえて長城氏は、NECが世の中の変革をリードするために実践している社内の取り組みについて紹介した。
長城氏によると、NECはグループ全体で「先進技術の実装とDXの実践によって自らを変革し続け、お客様と社会の変革をリードする存在になる」というミッションを掲げ、グループ全体でAI技術の活用を浸透させる「AIトランスフォーメーション」を推進しているのだという。具体的には、情報セキュリティに関するルールやポリシーといった社内の仕組みづくりや、AIの活用事例の共有を推進するカルチャーの生成、NECの生成AI「cotomi」の積極的な活用の推進やAIを中心としたエコシステムを推進するためのグローバルな戦略的協業などを行うことで、AIを活用した価値創造をグループ全体で進めているのだ。
こうしたNECの姿勢について、長城氏は「私たちは、“クライアントゼロ”という考え方を掲げてAIの活用に注力している。これは、私たちNECを“0番目のクライアント”と位置づけ、(様々な試みを実践することで)そこで得られた知見をお客様に還元するという考え方だ」と説明する。具体的には、現在NECの社内では7つの業務領域で23種類のAIエージェントを実装しており、社員が評価を行い、改善を進めているという。
例えば、営業活動を支援するアカウントプランニングのAIエージェントでは、顧客の情報を入力することでAIエージェントが社内外の情報を参照してSWOT分析を行い顧客の状況を判断。その情報を元にNECグループの様々なソリューションのなかから最適なものをマッチングし、どのように顧客に価値提供をしていくのが最適かを示唆してくれるものになっているという。これにより、新規顧客へのアプローチなど早い段階から営業活動を支援してくれるのだ。
また、顧客の問い合わせに対応するヘルプデスクでは先述のNEC Communication Agentを導入し、問い合わせの迅速化・最適化を実現しているほか、情報セキュリティ領域では、ネットワーク監視・診断にAIを活用しているのだという。
そして、AIによる業務の変革を推進してるNECが同じように注力しているのが、AIガバナンスの取り組みだと長城氏は語る。具体的には、意図された通りにAIが動作し人や環境への危害を防ぐ「セーフティ」と、AIやデータを保護し不正アクセスやデータの改変・破壊・漏洩を防ぐ「セキュリティ」という2つの領域で、様々な取り組みを推進しているのだ。
最後に、長城氏はTreasure Data CDPによるデータ基盤とNECの「+AI」の考え方が組み合わされることによってどのような価値が創造されるかについて紹介した。
長城氏はTreasure Data CDPの価値について「分断されたデータを統合的に管理して顧客ひとりひとりを鮮明化することができる。そしてパーソナライズされたコミュニケーションを実行できるのが特長。顧客を深く理解した上でひとりひとりに最適されたマーケティングを実践できる」と評価。長城氏も事業戦略担当となる以前はNECのデータサイエンティストとしてこれまでTreasure Data CDPを様々な企業に実装してきたそうで、「お客様のカスタマージャーニーをデータによって描くことができ、そこから価値提供することができる。企業と顧客がウィン・ウィンな関係を築くことができる点が大好き」と語る。
「Treasure Data CDPは保管するデータやその活用法によって様々な価値を生み出すことができるプラットフォーム。セールスなどの分野だけでなくユーザーへのフォローアップやエンゲージメントの向上などにも活用できる」とTreasure Data CDPの可能性を語る長城氏。こうしたデータ基盤にAIが組み込まれることによって生まれる未来の世界は、「業界や業務の垣根がなくなり新しい社会が生まれるのではないか」と提言した。