株式会社ジェーシービー・インターナショナル
データ活用の壁を超えて
― LLMによるASEAN拠点のデータドリブン意思決定の実現
- 右上
- 株式会社ジェーシービー・インターナショナル
ASEAN DX 推進部 マネージャー
城之内 将悟氏 - 右下
- 株式会社ジェーシービー・インターナショナル
ASEAN営業本部 主任
貫井 あゆみ氏
日本発唯一の国際カードブランド運営会社である株式会社ジェーシービーの海外業務を担う子会社株式会社ジェーシービー・インターナショナル。ASEAN各国への事業展開を進めるなかで、同社が強みとするグローバルのカードトランザクションデータの分析に、Treasure Data CDPを活用してきた。
国際的なビジネスにおけるデータ活用と、生成AIの導入を通じたCDP活用の社内定着について、ASEANでの業務のDXを推進する城之内将悟氏、株式会社ジェーシービーの東京本社で支援する貫井 あゆみ氏が詳しく語ってくれた。
業務知識を反映したAIエージェント
社内用語やビジネスの文脈をAIにインプットし、より実務的な活用を目指した
工数が半減
提携銀行向けのデータ分析、施策提案の工数が劇的に削減。リードタイムは19日から9.5日に
目次
データ活用による付加価値の創出
ジェーシービー・インターナショナルで、ASEAN地域のDXを横断的に推進する城之内氏。クアラルンプールを拠点に、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど、ASEAN各国で同社の事業拡大に取り組む。
JCBは、日本発唯一の国際カードブランドだ。ASEANでは各国の主要銀行と提携し、サービスを展開してきた。例えばタイでは、複数の提携銀行とともに、スタンダードカードからプラチナ、最上位のアルティメットカードまで幅広いグレードのJCBカードを展開する。カードデザインには、富士山や桜といった日本文化のモチーフを取り入れるなど、日本ブランドの価値を前面に打ち出しているのが特徴だ。
その他の国でも市場特性に合わせ、日本ブランドとひも付けたメッセージを訴求する。インドネシアでは「SUGOI! JAPAN」、フィリピンでは「Best of Japan」、ベトナムでは「JAPAN with you」といった形だ。
城之内氏は、直面する課題の背景として、ASEAN地域における独特のビジネスモデルを挙げた。JCBは提携先の銀行にブランドライセンスを提供し、各銀行が自国の顧客にJCBカードを発行するBtoBtoCのモデル。つまりJCBにとっての直接的なカウンターパートはカード会員ではなく、カードを発行する現地の銀行となる。
こうしたビジネス環境では、カード利用の拡大などを望む提携銀行に対し、JCBとして付加価値を提供することが重要だ。ここで同社の強みとして城之内氏が挙げるのが「グローバルなカードトランザクションデータを保有している」ことだ。数億件にのぼるデータは、提携銀行がカード利用促進などのマーケティング施策を検討する上で、重要な基盤となる。
そこで、城之内氏らが提携銀行に対し提供するのが、データの分析に基づくアドバイザリーだ。例えば、JCBがカードトランザクションデータを用い、各国の顧客行動、あるいは嗜好を分析し、マーケティング施策を提案する。
一方、実際の取り組みを進める上では「2つの大きな障壁があった」と城之内氏は語る。
法務の要件を満たし生成AIの導入へ
障壁の1つ目は、データ抽出の難しさだ。レガシーなデータ抽出システムは、作業に長い時間を要する上に、使いこなすにはテーブル構造など、データベースの理解が必須だった。
2つ目は、データ分析の難しさだ。抽出されたデータを分析するには表計算ソフトなどでの手作業が必要とされ、そのスキルを持つ人材は限られていた。
こうした状況を克服するため、同社は2023年にTreasure Data CDPを導入する。当初から顧客分析機能のトレジャーインサイトと機械学習機能のAutoMLを採用し、さらに2025年4月からは生成AI機能の活用も進めている。
東京の本社で各国・地域のデータ分析および関連業務の改善を支援する貫井氏は、「AI活用の最初の大きなステップは、セキュリティの確認だった」と、導入当時を振り返る。
生成AIを用いた分析は日本を含む複数の拠点で実施される。このため、データが発生した国・地域と、分析を行う国・地域の双方において、適用される法令・規制要件を確認した。あわせて、システム面でのアセスメントも実施した。同社では、情報漏えい等のリスクを抑制するため、AIに関する社内ガイドラインを定めており、AIを利用するシステムはこれに準拠した設計・運用が求められるためだ。
特に重視したのが、「AIに学習を行わせない設計」である。AIが自律的に学習する構成を取った場合、意図せず機微な情報を含むデータが取り扱われるリスクが生じ得る。そのため、本件では、入力内容や分析結果がモデルの学習に利用されないことを、仕様および提供条件を通じて確認したうえで、会話単位で処理が完結する設計とした。加えて、アクセス権限管理とログの保存によって利用状況を可視化し、AIが安全かつ適切な利用であることをモニタリングしている。
AIエージェントがローカル拠点でのデータ活用を推進
法務・運用面での確認を終え、城之内氏らはデータ分析向けのAIエージェントの構築に着手した。導入にあたって重視したのは、汎用的なAIをそのまま使うのではなく、独自の社内用語や文脈を反映すること。プロンプトの曖昧さを減らし、より実務に即したアウトプットを得る狙いだ。
約4カ月の開発期間を経て、正式にTreasure Data CDPのLLM活用を開始。社内向けのトレーニングも進め、現在では東京本社およびASEANの各国拠点に展開されている。
生成AIの導入以前は、ASEANを統括するDXチームが主体となり、データを分析し、各国の提携銀行向けの提案を作成していた。提案内容は提携銀行から高く評価されるが、対象の提携銀行は30〜40行にのぼる。限られたメンバーで、すべてに適切な提案を行うことには、明らかな限界がある。
そこで城之内氏らは、データ分析・提案業務の転換を試みた。DXチームが各国横断で業務を担うのではなく、各国のローカル拠点がデータを分析し、銀行への提案を作成する。DXチームは支援役に回り、現場主導で能動的にデータ活用できる状態を目指した。CDPのデータとAIエージェントを活用すれば、専門的なデータ分析スキルがなくても、有用な示唆を素早く得ることができる。
城之内氏は、実際に運用するAIエージェントを用い、同社で行われるデータ分析の例を示してくれた。
「利用可能なすべての期間を対象に、日本で対面決済を行ったインドネシア人カード会員数が最も多い月を特定し、そのピーク月の前後3カ月とあわせて可視化してください」
と指示すると、AIエージェントは数秒で結果を提示する。ピークは桜のシーズンと重なる4月で、約5,000人のユニークカード会員が日本でカードを利用していることが分かった。
さらに城之内氏は分析の切り口を広げ、前年同月比の推移やキャンペーン実施による利用増加の影響、日本での利用加盟店の傾向といった分析を、次々と行っていく。複数の視点からの分析を通じて、カード会員の行動や嗜好を把握し、次のプロモーション施策を検討するための示唆が得られる。城之内氏は一連の分析を、わずか数分で完了させた。
一方で城之内氏は、AIエージェントを導入すれば誰もがすぐに使いこなせるわけではない、と強調する。運用の中で見えたポイントは次の3点だ。
- 自社データへの理解
取得できるデータ、できないデータを把握していなければ、AIに適切な指示を出すことはできない。 - 生成AIを使いこなすためのユーザーリテラシー
AIは与えられた指示に忠実に応答するため、人間は分析内容を具体的に指示する必要がある。 - 結果を鵜呑みにしない姿勢
AIの分析結果を正しく判断するには、日頃から自社ビジネスのスケール感や感覚を持っている必要がある。
また、取り組みを定着させるうえで、組織としての後押しも不可欠だった。従来の営業スタイルに替わる方針を明確に示すトップダウンと、組織/個人両面からのKPI設定により、データドリブンな業務への変容を促してきたという。
分析から提案作成の工数が半分に
取り組みの結果、データ分析・提案作成の業務は大きく効率化した。「従来は分析から最終的に提案をまとめるまで、1件あたり19日と、ほぼ1カ月かかっていた」と振り返る城之内氏。生成AI導入以前は、データの抽出、加工、可視化を経て提案を作成するという流れで、途中で追加分析、再抽出が必要になることも多かったという。
一方「AIエージェントとのブレインストーミングから検討を開始する」(城之内氏)のが、現状のプロセスだ。方向性の整理には最大2時間程度しかかからず、その後の詳細分析や複雑なセグメンテーション分析も、1〜2日で完了する。
分析から提案作成の工数は従来のおよそ半分となり、リードタイムは約9.5日へと短縮された。提案内容の検討や改善に、より多くの時間を割けるようになったという。
こうして成果が見えはじめた同社の生成AI活用だが、城之内氏は現在の状態を「導入の途中段階」と評価する。当面はローカル拠点への教育を進めながら、提携銀行ごとのKPIを設定し、仮説をもとにプロモーション施策を設計・実行、改善を繰り返すというPDCAサイクルを継続する。トライアルの実施などを通し、ユースケースを積み重ねることで、成功モデルを見出していく構想だ。
また、城之内氏は将来的に更なる向上を見据える。銀行との連携を深め、両社の保有データをTreasure Data CDPに統合することができれば、より踏み込んだ分析が可能になる。CDPとAIエージェントを起点に、提携銀行とともにデータ活用の高度化を図っていく構えだ。