業界最大級の看護師転職サービス「ナース専科 転職」などを運営する株式会社エス・エム・エス。2003年の創業以来、看護・介護領域の転職・就職支援サービスを展開するなど、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」というミッションを掲げている。
そんな同社が今、マーケティングの変革を進めている。2026年1月にTreasure AIを導入し、半年足らずで顧客理解とCRMを精緻化するデータ活用基盤を構築。マーケター主導でAIエージェントを活用し、次世代のマーケティングを実現する下地を整えた。
導入プロジェクトを推進する多田和樹氏に、Treasure AI活用の背景から、構築プロセス、AI活用の可能性まで、詳しく聞いた。
AIエージェントの構築
顧客理解を深め、CRM施策の実行を効率化するAIエージェントを非エンジニアが構築
労働集約型からの脱却
パーソナライズされたコミュニケーションにより、生産性と利益率の向上を狙う
Table of Contents
“刈り取り型”マーケティングからの転換
多田氏は、全社的なBPRを推進する部門で、主にマーテックツールの導入・運用や、BIを活用した経営情報の可視化など、マーケティング領域のテクノロジー支援を担っている。「ビジネスアーキテクト」として、データ基盤の構築と現場ビジネスとの接続を推進しており、その一環としてTreasure AIの導入を主導してきた。
「これまでは検索連動型広告を中心としてきた」と、多田氏は従来のマーケティングを語る。「看護師 求人」などの検索キーワードから、転職意向が顕在化したユーザーを獲得する“刈り取り型”のマーケティングだ。
しかし足元では、競合他社との競争激化に加え、生成AIの普及によって検索行動そのものも変化しつつある。従来と同じ手法だけでは、持続的な成長は難しくなっている。
そこで同社は、蓄積した多数ののユーザーデータを活用し、メールマーケティングにも取り組んできた。ただ、実際には求人情報の一括配信が中心で、ユーザーごとの状況や転職意向に応じたCRMは実現できていなかった。
そんな中で、人材業界のテクノロジー活用は急速に進んでいく。検索行動から転職意向のシグナルを捉えるだけでなく、ユーザーと継続的にコミュニケーションを取り、関係性を構築していく必要性を強く感じていた。
AIエージェントで会話データからセグメントを作成
人材サービスのなかでも同社の主力は、求人事業者と求職者(ユーザー)の間に介在し、双方の希望や条件に基づきマッチングする人材紹介業。採用サポートの現場で、ユーザーとコミュニケーションをとるキャリアパートナーは、日々の会話を通じて人物像を理解し、それぞれに適した求人を提案している。
マーケティングにおいても、本来はこうした個別最適化されたコミュニケーションが理想的だ。しかし、個々のキャリアパートナーの知見を言語化し、組織全体で活用できる形へ落とし込むことは容易ではない。
Treasure AIの導入以前から、多田氏らはユーザーのキャリア志向やライフスタイルなどをもとに、クラスタリングを進めていた。キャリアパートナーへのヒアリングなどを通じ、定性情報からユーザーを10種類前後のクラスタに分類していったという。ただ、当時はクラスタを実際のユーザーデータと突合し、個々のユーザーに紐づけて活用するところまでは至っていなかった。
こうした状況下で進められた同社のTreasure AI導入で、特徴的だったのがAIエージェントの活用だ。多田氏は自らTreasure AI上でAIエージェントを構築し、作成済みのクラスタをもとにユーザーのセグメンテーションを実施していった。
例えば最初に取り組んだのが、看護師としてのプロ意識を持ちながら、家庭に対する責任感も強い「家族の責任重視ナース」セグメントの作成だ。家族構成や子どもの年齢がデータベース上で項目化されていれば、該当するユーザーをある程度絞り込めるだろう。しかし、「顧客に関する多様なデータはIDで統合されているものの、個々のユーザーの属性まで整理できてはいなかった」と多田氏。家族や育児に関する情報は、履歴書や面談時の会話ログなどに存在していたものの、データベース上で構造的に管理されているわけではなかったのだ。
そこで多田氏らは、独自のAIエージェントを構築し、「家族の責任重視ナース」に該当するユーザーの抽出を進めた。

「セグメント作成に必要な条件や項目を、AIの示唆を受けながら設計していった。最終的には、『育児』や『保育園迎え』のようなキーワードを、データから正規表現で抽出する形になった」
(多田氏)
手始めに、Treasure AIで作成したセグメントをGoogle広告と連携し、ターゲティングへの活用を進めているという。
次に取り組んだのが、AIエージェントによるマッチングSQLの生成だ。同社のメールマガジンでは、情報コンテンツとともに、ユーザーごとに適した求人情報を掲載している。従来は、MAツール上で条件と求人情報をGUIベースで手動マッチングさせていた。
マッチングにはSQLの生成が必要であるため、AIエージェントを活用することで手動作業の工数削減に加え、より高精度なマッチングも期待できる。
多田氏らは、データベースの多様な情報を参照し、ユーザーと求人情報をマッチングするSQLを自動生成するAIエージェントを構築。生成されたSQLはTreasure Workflowで実行し、求人リスト用のテーブルを作成したうえで、Engage Studioへ連携する流れだ。
CDP × AIが切り拓く、BtoB営業の次の姿
Treasure AIの導入において、最初期段階のデータ連携や投入フェーズでは、社内エンジニア陣の手厚いサポートのもと、多田氏が主導する形でプロジェクトを進めてきた。その後は社内リソースを大きく消費することなく、多田氏を中心に運用を軌道に乗せている。Treasure AIの事例の中でも、非エンジニアがここまでの構築を担うケースは珍しい。なぜ、それが可能だったのか。
多田氏がポイントとして最初に挙げたのは、自身がSQLをゼロから書くことはできなくても、内容を読んで理解し、正誤を判断できたことだ。AIが出力したコードやSQLの実行結果を確認しながら、スピーディに構築を進めていった。
また、AIエージェントのプロンプトの調整には「時間をかけた」と強調する。多田氏自身が使うだけであれば、都度AIと対話しながらSQLを調整していくこともできる。しかし、今後ほかのメンバーが活用することを見据えると、一度で精度の高い結果を出せる状態までプロンプトを作り込む必要があった。
最後は、Treasure AIドキュメントポータルのフル活用だ。Treasure AIでは、AIエージェントについて、マーケター向け、エンジニア向け、IT部門向けなど、さまざまなスタートガイドをオンラインで公開している。
ドキュメントポータルでは、AIアシスタントに質問し、必要な情報を取得することも可能だ。「やりたいことの“説明書”は、すでに用意されていた」と、多田氏は振り返る。「他のツールで使っていたSQLを、Treasure AI向けに書き換える際なども、適切に回答してくれた」。
AIを活用することで、マーケティングなど非エンジニア部門でも、データ活用基盤を早期に立ち上げられる――多田氏の取り組みは、新たな環境が整いつつあることを示している。
前提となるのは、自社データの特性を正しく理解することだ。AIが文脈を正確に把握できるようインプットを整備することが、「今回もっとも苦労した点だった」(多田氏)。データベースの構造や成り立ちに加え、テーブル上の不備の補足、社内用語の定義なども丁寧にAIへ伝えていったという。
ただし多田氏は、非エンジニアによる構築が、すべてにおいて適切とは限らないとも語る。スピードを重視して検証を進めるフェーズでは、非エンジニアでも直接作業できる環境は有効に機能する。一方で、長期的な安定稼働を見据えるのであれば、エンジニアのリソースを確保したうえで構築すべき部分もあると指摘する。
非エンジニアがデータ活用基盤を構築できる時代へ
Treasure AIの導入において、最初期段階のデータ連携や投入フェーズでは、社内エンジニア陣の手厚いサポートのもと、多田氏が主導する形でプロジェクトを進めてきた。その後は社内リソースを大きく消費することなく、多田氏を中心に運用を軌道に乗せている。Treasure AIの事例の中でも、非エンジニアがここまでの構築を担うケースは珍しい。なぜ、それが可能だったのか。
多田氏がポイントとして最初に挙げたのは、自身がSQLをゼロから書くことはできなくても、内容を読んで理解し、正誤を判断できたことだ。AIが出力したコードやSQLの実行結果を確認しながら、スピーディに構築を進めていった。
また、AIエージェントのプロンプトの調整には「時間をかけた」と強調する。多田氏自身が使うだけであれば、都度AIと対話しながらSQLを調整していくこともできる。しかし、今後ほかのメンバーが活用することを見据えると、一度で精度の高い結果を出せる状態までプロンプトを作り込む必要があった。
最後は、Treasure AIドキュメントポータルのフル活用だ。Treasure AIでは、AIエージェントについて、マーケター向け、エンジニア向け、IT部門向けなど、さまざまなスタートガイドをオンラインで公開している。
ドキュメントポータルでは、AIアシスタントに質問し、必要な情報を取得することも可能だ。「やりたいことの“説明書”は、すでに用意されていた」と、多田氏は振り返る。「他のツールで使っていたSQLを、Treasure AI向けに書き換える際なども、適切に回答してくれた」。
AIを活用することで、マーケティングなど非エンジニア部門でも、データ活用基盤を早期に立ち上げられる――多田氏の取り組みは、新たな環境が整いつつあることを示している。
前提となるのは、自社データの特性を正しく理解することだ。AIが文脈を正確に把握できるようインプットを整備することが、「今回もっとも苦労した点だった」(多田氏)。データベースの構造や成り立ちに加え、テーブル上の不備の補足、社内用語の定義なども丁寧にAIへ伝えていったという。
ただし多田氏は、非エンジニアによる構築が、すべてにおいて適切とは限らないとも語る。スピードを重視して検証を進めるフェーズでは、非エンジニアでも直接作業できる環境は有効に機能する。一方で、長期的な安定稼働を見据えるのであれば、エンジニアのリソースを確保したうえで構築すべき部分もあると指摘する。
ユーザーのシグナルを捉えコミュニケーションを変える
とはいえ、同社のTreasure AI活用はまだ始まったばかりで、多田氏はより完成されたマーケティングの仕組みを見据える。今後は、マーケティングからキャリアパートナーへの「送客」の質を高めていくという。
ユーザーが広告やメールを経由して登録すると、キャリアパートナーが担当につき、人材紹介のプロセスが始まる。これが同社のいう「送客」だ。その後、キャリアパートナーはユーザーと面談を行い、条件に応じて求人事業者との面接を設定していく。
このとき、マーケティングで登録者数だけを追求すると、対応するキャリアパートナー側の工数も比例して増加する。労働集約型の構造から脱却できず、売上が成長しても、生産性や利益率の向上にはつながりにくい。
そこで、ユーザーの転職意向を適切にとらえて見極める、あるいは転職意向が上がった状態でキャリアパートナーに連携するなど、送客の質が重要になる。
そのためには、ユーザーとの長期的な関係を構築し、転職を考え始めたシグナルを早期にキャッチする必要がある。Treasure AIではユーザーの許諾を得たうえで、Web上の行動履歴などを取得し、ユーザーの変化を把握することが可能だ。例えば「在職中のユーザーが、履歴書の書き方のコンテンツをクリックし、70%読了していれば、転職に関心がうまれたことがわかる」(多田氏)。

今後は、Treasure AIのカスタマージャーニーオーケストレーションを活用し、シグナルに応じて、コミュニケーションシナリオを動的に切り替えていく構想だ。Engage Studioとも連動させながら、フレキシブルでパーソナライズされたコミュニケーションを目指している。
「カスタマージャーニーオーケストレーションを設計し、PDCAを回せる状態になれば本格稼働と言える」
(多田氏)
暗黙知を形式知化しAIと共有する
従来のマーケティングで顧客理解を深めるには、取得するデータ項目を増やし、それらを構造化・整理したうえで分析する必要があった。しかし今後は同社のように、AIエージェントを活用することで、完全には構造化されていないデータからでも、よりスピーディに顧客への解像度を高められる。
それは、従来は埋もれていた情報資産の価値を掘り起こし、企業の武器として最大化することだ。「私たちは、求人プラットフォームにないデータを大量に持っている。構造化されてはいないが、キャリアパートナーが日々お客様と向き合ってきた結果生まれた情報資産は、人材紹介業の強みだ。それらを有効活用できる環境を、AIが作ってくれた」(多田氏)。
多田氏は今後、自身が行ってきたTreasure AIによるデータ基盤の構築・活用を、社内に広げていくという。注目する機能の一つが、自然言語でセグメント作成からジャーニー設計、ワークフロー構築、分析・検証までを一気通貫で行えるTreasure AI Studioだ。従来は専門的なエンジニアリングが必要だったデータ活用業務を、誰でも推進できるようになる。
「マーケターの皆さんが思いついた素敵なアイデアが、迷わず形にできるような環境になれば嬉しいですね。その結果として、お客様にとっても本当に必要な情報が心地よいタイミングで届く。そんな理想的な体制づくりの力になれればと考えています」
(多田氏)
そのためにも多田氏は「暗黙知を形式知化していく」と自身の役割を語る。社内に蓄積された情報を整理、言語化しAIが理解できる状態にすることが、データ活用のカギになるのだ。
