株式会社ジェーシービー

JCBが顧客起点と部門横断で描くCDPを活用したマーケティング戦略

株式会社ジェーシービー

イシュイング本部 販売促進部 次長(顧客チャネルグループ担当)

藤林 健太氏

クレジットカードのインフラを担うJCBは、1961年の創業以来、会員・加盟店・ブランドの3つの領域で様々な商品・サービスを展開してきた。事業規模の拡大と多様なラインアップの拡充に伴い、部門ごとにデータとシステムが積み重なる一方、会員一人ひとりに一貫した体験を届けることが難しくなっていた。
こうした課題に対して同社が取り組んだのが、Treasure Data CDPによる顧客データ基盤の整備と、多くの事業部が連携する協創型のマーケティング変革だ。技術の導入に先立ち「顧客への提案価値」から逆算して設計を固め、現場ユーザーの定着まで丁寧に取り組んできたプロセスについて、株式会社ジェーシービー 販売促進部 次長(顧客チャネルグループ担当)の藤林健太氏が、2025年12月2日開催の同セミナーで解説した。


目次

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「お客様志向」が、マーケティングの出発点

藤林氏はまず、JCBという会社の本質を「お客様志向」という言葉で説明した。JCBが公式に掲げるブランドメッセージ「世界にひとつ。あなたにひとつ。」のステートメントでは、「お客様志向」を“当社のあらゆる事業の根底を貫くカルチャー”と位置づけている。
また、2025年度から取り組む中期経営計画「Plan 2028」でも、活動方針(3つのC)の第一に「お客様・市場を起点とした思考/行動(Customer)」を掲げている。
1961年に日本初の汎用型クレジットカードを世に送り出して以来、現金主義が根強かった日本社会にキャッシュレスの利便性を届けてきたのがJCBの歩みだ。目先の収益ではなく、「お客様の不便を解消し、ショッピングやキャッシュレスの利便性を提供する」という創業以来の姿勢——藤林氏は、この原点にこそCDPを活用したマーケティング変革の精神が息づいていると語る。
「この思いを引き継いで、お客様にとって最適なショッピング体験・キャッシュレス体験を届けていきたい。グループで働く社員一人ひとりが、同じ思いで働いていると思っています」。この顧客への向き合い方こそが、根底にある精神なのだ。

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藤林氏自身も、前職でデータ活用の原点となる体験を20代で経験している。大きな分析プロジェクトに携わった際、数か月以上データを分析しても対象の特徴が見えてこなかった。追い詰められた末、現場へ足を運び、現場担当者と直接会話をした結果、会話の中に出てきた言葉が分析を進めるうえでの大きなヒントになった。これにより「データ分析は教科書通りのセオリーを出すだけでは人を動かせない。現場に行き、ストーリーが生まれて初めて人を動かす力を持つ」という気づきを得た。この体験が、その後のデータ活用に対する藤林氏の哲学を形成しているのだ。

多様なサービスと長い歴史が生んだ分散という課題

JCBが直面していた課題は、多くの大企業が陥りやすい構造的なものだった。長い歴史のなかで、自社発行カードのオリジナルシリーズから提携先カード、フランチャイズ先の銀行カードまで、ひとつの「クレジットカード」という事業をとっても、無数のニーズが積み重なっている。
商品別・事業別に細分化され、それに伴ってシステムは点在化し、データは分散してしまっていた。
その結果として起きていたのが、顧客体験の分断だ。プロダクトごとに個別最適化された提案が重なり、「お客様から見ると、一貫した提案になりきれていなかったのではないか?」と藤林氏は振り返る。
さらに、組織内部でも課題があった。事業部門が顧客分析に力を入れても、マーケティング部門への橋渡しは数行に集約された「作業依頼書」となり、分析に込められた思いや文脈が失われていた。分析の深度とプロモーション実行がうまく連動していない状態だったのだ。
藤林氏はこの課題の本質を「多様なお客様のニーズを統合して、一貫した体験を作ること」と定義した。長い歴史や多様性を否定することなく、データとシステムを『統合し連動させる』ことでこの矛盾を解消していく——その手段として選ばれたのがTreasure Data CDPなのだ。

「技術先行」を避け、顧客提案から逆算した設計思想

CDP導入に際して藤林氏が最も重視したのは、「技術ありき」ではなく「お客様への提案価値からの逆算」という設計思想だ。CDPを導入した企業が直面する可能性が高い課題として、藤林氏は次の4つを挙げた。

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  • システムを導入する側がプロモーションや分析の実務を理解しておらず、ツールが使えないまま放置されること。

  • 新しいシステムの使い方が現場に浸透しないこと。

  • データを集めること自体が目的化し、「データが多ければ課題が解決する」という誤解が生まれること。

  • 人間の習性として新しいものへの抵抗感があり、変化を受け入れにくいこと。

これらの課題に対して、JCBはCDP導入前から具体的な対策を講じた。まずシステム本部に対して導入の理念と目指す姿を共有し、賛同を得た上で各事業部を巻き込んでプロジェクト化した。単に分析が速くなるだけでなく、「良いセグメントができれば、お客様への提案機会が大きく広がる」というメリットを現場に明示した。また、本格導入前にモックのデータベースを構築し、既存の業務が再現できることをユーザーに実証してみせた。さらに教育についても、外部ベンダーに任せきりにせず、社内に使える人材を育てて机を並べて一緒に学ぶ体制を整えた。

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「システムに入れる人間が実際のプロモーションや分析を知らなければ、当然使えないシステムになる。この4つの課題はCDP導入で陥りがちだが、事前に想定して手を打てるかどうかが成否を分ける」

(藤林氏)

さらに藤林氏が重視したのが、CDPの活用を「分析」だけに偏らせない工夫だ。事業組織の担当者は日々の業務に追われ、「分析に時間を割くよりも、まずは売上を上げたい」という意識が強く、分析へのニーズがそもそも生まれにくいという現実がある。そこでJCBは、データ分析機能の強化と並行して、Webサイト上での顧客接客(Web接客)も同時に強化した。顧客との接点を増やすことで初めて、分析すべきデータと向き合うべき課題が生まれる——この考えのもと、「分析」と「接客」の両軸でCDP活用を推進したのだ。

「誰の仕事がどこと繋がるか」を可視化した導入設計

CDP導入前に藤林氏が取り組んだのが、「誰の仕事がどのデータと繋がり、最終的にお客様のどのような体験に結びつくか」を可視化した設計図の作成だ。
JCBの会員専用Webサービスである「MyJCB」の認知拡大と利用者増加を例に挙げると、戦略を考える役員層から、実際にメール配信や提案を実行する現場担当者まで、各人が「Treasure Data CDPのどのデータを見れば何が分かるのか」「そのデータをどう使い、最終的にお客様の体験のどこに繋がるのか」を一枚の図に落とし込み、議論しながらプロジェクトを前進させた。

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同様の設計を入会後のカスタマージャーニーにも適用した。入会から1ヵ月・1年間という顧客との接点が極めて重要な期間において、何をデータ化し、どの情報を起点にどのチャネルでどのようなシナリオを展開するかを社内に提案し、各部門と合意形成を図った。
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データ項目の設計についても、同じ哲学が貫かれている。導入当初に事業部とシステム本部へ提案した顧客属性は約400項目。その後、現場との対話を重ね、講演時点では約800項目にまで拡張されている(2026年現在は2,000超に拡充)。

「800項目といっても、こねくり回した高度な分析ではない。ごくごく基本的な因数分解の積み重ねだ。現場の声をよく聞くと、先月・今月のお客様の利用金額はいくらか、何パーセント伸びたか、KPIにあと少しで届くお客様は誰か——こういったことが知りたいという。だから基本を丁寧に押さえることを優先した」

(藤林氏)

まず基本情報を固め、その後趣味・嗜好など高度な項目へ拡張していった。日々の業務で直接使える基本的な情報の整備を優先したことが、現場ユーザーの定着に繋がっている。

1施策あたり約130万円のコスト削減——定量成果が示す変革の手応え

CDP導入の定量的な成果として、藤林氏が紹介したのが施策1本あたりの内部コスト削減だ。月間約300本に及ぶ顧客への提案シナリオを承認・管理している藤林氏は、従来の施策のうち複雑な分析処理を伴うものを代表例として取り上げた。
かつては、データの集計・加工・コミュニケーション調整・会議・検証といった一連の内部作業に、施策1本あたり相応のコストが発生していた。Treasure Data CDPの導入によってこのフローを自動化・効率化した結果、提案品質は一切変えずに1本あたり約130万円のコストを削減できたという(2025年12月の講演時点の社内試算値)。
「代表的な施策でここまでの成果が出ていることは、確かな手応えだ」(藤林氏)。また、ユーザー評価についても総じて高い評価が得られた。特に、CDPの導入によって事業部門とマーケティング部門が同じ顧客データを『一緒に見る』環境が整い、これまで依頼書1枚のExcelで失われていた分析の文脈や思いを共有できるようになったことへの評価が高い。
一方で、新たな課題も見えてきた。約800項目ものデータが蓄積された結果、「その情報がどこにあるかが探せない」「どう組み合わせていいか分からない」という心理的障壁が現場ユーザーに生まれるようになったのだ。「どこまで行っても人間なので、情報を探すコストは一定かかる。それが心理的障壁になると分かってきた。この先の課題だ」(藤林氏)。

AIが解くのは「心理的障壁」——次世代への知識継承も視野に

藤林氏が描く次のステップは、生成AIの活用だ。その目的を、藤林氏は「短期」と「中長期」の2軸で整理している。
短期的な課題は、CDPに蓄積された情報へのアクセシビリティの改善だ。「情報がどこにあるか分からない」「データをどう探せばいいか分からない」「システムの使い方が分からない」——こうした現場ユーザーの心理的負荷に対して、生成AIを活用した自然言語インターフェースを整備することで、誰もがデータに親しみやすい環境をつくりたいと藤林氏は考えている。
中長期的には、より高度な施策支援への応用を目指す。コピーライティング、グラフィック制作、セグメンテーション設計——それぞれの領域に深い専門知識を持つプロフェッショナルが存在するが、「一人の人間が全ての領域を追体験することはできない。生成AIの力を借りてこれらの要素をミックスしていくことにチャレンジしたい」と藤林氏は語る。

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さらに藤林氏が重視しているのが、ナレッジの次世代継承という視点だ。「今この瞬間にチャレンジしていることは、数十年後には当たり前のこととして語られるはずだ。なぜやるのか、何に苦労したのか、どうやったのか、結果何を反省したのか——そのナレッジをTreasure Data CDPを使って蓄積し、次世代に継承していきたい」(藤林氏)。CDPを、単なるデータ管理ツールにとどまらず組織の知識と経験を継承するプラットフォームとしても活用しようというこの発想は、マーケティング変革を『一過性のプロジェクト』ではなく『組織の持続的な進化』として捉えていることを示している。

データはパソコンの中にない——お客様の中にある

藤林氏の講演を通じて一貫していたのは、「データ活用の目的は、お客様を深く理解し、お客様に寄り添った体験を届けること」という原則だ。

「お客様はデータではない。パソコンの中にお客様のニーズはない。できるだけ一人ひとりのお客様に近くなるように理解しようとする姿勢が重要だ。自分一人が理解しても意味がなく、社員全員が、あるいはパートナー企業も含めて共有して初めて意味を持つ。そしてみんながベクトルを揃えて動いた時に、連動が生まれる」

(藤林氏)

20代の時に現場へ足を運んで得た「現場まで行き、ストーリーが生まれて初めてデータは人を動かす」という気づきは、今もJCBのCDP活用の哲学の根底に流れている。技術の導入はあくまで手段であり、目的は顧客への価値提供と、それを支える組織の変革だ。部門サイロの解消、現場への定着、コスト削減の実現、そしてAIを活用した次のステージへ——JCBのマーケティング変革は、「顧客起点」という揺るぎない軸を持ちながら、着実に進化し続けている。

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