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2024/08/21

ビジネスを変革する顧客データ活用法 Vol.4

Treasure AI Treasure AI

顧客データをいかにビジネスに活用するか。これは、多くの企業にとって重要なテーマと言えるだろう。顧客データの活用は、企業が顧客中心のビジネスモデルを構築するための基盤となる。顧客の声を聞き、それに応じて製品やサービスを改善し、新しい顧客体験を創出することで、企業は顧客の期待を超える価値を提供し、不透明な市場環境の中でも持続的な成長を達成することも可能だ。
ただし、その実現は言葉で言うほど簡単なことではない。顧客データの活用に詳しいボストン コンサルティング グループ(BCG)の石附 洋徳氏が5回にわたり、活用のポイントや注意点について解説する。

Vol.4
AIが実現するマーケティング革命
ハイパー・パーソナライゼーションと効率化の可能性とは?

あらゆるビジネス領域でAIの活用が模索されている。マーケティングの分野においても例外ではない。個々の顧客に関する膨大なデータを総合的に分析すれば、その人が「今何を求めているか」を推測してより的確にアプローチできる。また、生成AIを使うことで、マーケティングのプロセス自体を効率化させることも可能だ。
今回はAIが秘める可能性と、より高い成果を得られる使い方について考察したい。

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AIが実現する「ハイパー・パーソナライゼーション」

かつての販促活動は、例えば「10%引きのクーポンを不特定多数の人に配布する」といったやり方で行われるのが一般的でした。その後、より効果的な「プレシジョンマーケティング」と呼ばれる手法が注目を集めるようになりました。これは年齢や性別、購買履歴などから顧客をセグメンテーションし、対象となる層に適切なタイミングで適切なメッセージを送ることで、より効果的に購買意欲を引き出そうとするものです。
近年、マーケティングの技術はさらに進化し、セグメント化された集団ではなく個別の顧客にピンポイントで情報を発信する、「パーソナライゼーション」の時代を迎えました。そして最近はAIのめざましい発展と普及を受け、パーソナライゼーションをいっそう高度化させた「ハイパー・パーソナライゼーション」という方法が出現しています。

これは、一人ひとりの顧客の行動データや購買データをリアルタイムで収集し、AIで分析することで、既存のパーソナライゼーションよりもはるかに個別化した体験を提供し、ロイヤルティを高めようとするアプローチです。あらかじめ設定した条件で抽出された顧客を、事前に用意したシナリオに当てはめるプレシジョンマーケティングに対し、ハイパー・パーソナライゼーションではAIが特定の顧客に関する膨大なデータを体系的に把握するとともに、世の中のトレンドのような流動的な要素まで加味します。そのうえで「その人がどんな商品を求めているか」「何をしたいと思っているか」を推測してそれに見合った情報を発信します。この方法が従来のマーケティングと比べ、購買行動を起こさせる確率を大きく高めることはいうまでもありません。

ハイパー・パーソナライゼーションの実例として、ボストン コンサルティング グループ(BCG)と米国のカフェチェーン、スターバックスが2016年に立ち上げたジョイントベンチャーの取り組みをご紹介しましょう。
この取り組みは「世界で最もパーソナライズされたブランドになる」というスターバックスの目標のもと、AIを活用したパーソナライズドマーケティングのプラットフォームを構築するものでした。具体的には、本人の同意を得たうえで、AIが顧客の過去の購買データをその日の天候やモバイルアプリの利用状況、ソーシャルメディアでの行動といったさまざまな条件と結びつけ、お勧め商品を適宜アプリやメールでレコメンドする、というものです。実に40万通りものオファリングを可能にするプラットフォームを構築することで、2017年の会員顧客の売り上げを前年比で20%も増加させることに成功しました。

先進的なAI活用がもたらすスターバックスのマーケティング革新

スターバックスが手にした成果は、売り上げの拡大にとどまりません。AIで大量のデータを分析することでロイヤル顧客を生み出す道筋がより明らかになり、例えば「以前はよく店舗を訪れていたのに、最近は足が遠のいている顧客」を抽出して来店を促すメッセージを送るといったこともできるようになりました。
一般的に言って、顧客が来店しなくなる理由は無数に考えられますが、AIで解析することで、ユーザーの行動データから「他にお気に入りの店ができた」「嗜好性が変わった」など詳細な原因を検討しやすくなり、ケースごとに的確な対策を講じられます。一方、その顧客が転居したのであれば、以前の住まいの近くにある店舗への来店を促しても意味がありません。また、顧客の中には特売商品のみを求めて通常商品を購入しない、“チェリーピッカー”と呼ばれる顧客層もいます。何百万、何千万といる顧客のすべてを細かくパーソナライズして販促活動を行うにはオペレーションコストがかかるため、適切に戦略を立ててアプローチすることも必要になります。

スターバックスの事例において着目すべきは、早くも2016年にこのようなかたちでAIを活用しようとした先進性もさることながら、まだセグメンテーションを中心としたプレシジョンマーケティングが主流だった時代において、パーソナライゼーションに徹した姿勢そのものにあると思います。同社はその後もケイパビリティを高め、パーソナライゼーションをさらに進化させています。

生成AIでマーケティングの業務生産性を向上

急速に注目を集めるようになった生成AIも、マーケティングの分野に活用され始めています。ある世界的なヘルスケア企業では、本部で策定したマーケティング施策を各国向けにローカライズする際に生成AIを活用しています。
まず本社でベースとなる制作物を作成し、それを各国に展開するためには、マーケット状況の特性やカルチャーに合わせて修正をします。さらに国ごとに異なる医療制度や法律に対応する必要があるため、結果的に1つの施策が世界全体で実施されるようになるまでに、以前はおよそ6ヶ月の期間を要していました。
マーケティング施策におけるコンテンツ制作のプロセスや、各国のメディカル基準に応じたアダプテーションなどに生成AIを使うようになってからは、各プロセスの所要時間が大きく短縮。展開までにかかる期間はわずか6週間ほどとなりました。

マーケティングの分野では消費者への新たなアプローチの仕方が次々に開発され、そのトレンドがめまぐるしく変化しています。生成AIを活用することで担当者の業務負担が軽減されるだけでなく、リードタイムの短縮によりマーケティング施策に最新の手法を取り込みやすくなりました。マーケティングが高度化すればその分、消費者により価値の高い情報や体験を提供できます。

このように、AIはパーソナライゼーションに役立つだけではなく、マーケティングのプロセスそのものを変革して生産性を劇的に高めることにも寄与します。
とはいえ、実際の業務シーンでのAI活用はまだ緒についたばかり。マーケティング領域に限らず、十分な成果を出すところまで至った企業はまだそれほど多くはないのが現状です。では、成果を最大化するにはどのようなことに留意すべきなのでしょうか。それには「AIが今後のビジネスにどうインパクトをもたらすのか」について俯瞰しておく必要があります。

人とAIの共創がもたらすビジネスの未来

私はAIがこれからのビジネスにもたらすインパクトは、大きく次の3つの方向に集約されるのではないかと思っています。
1つ目は「単純な業務の効率化」です。これは最も得られやすく、かつ目に見えやすい成果だといえるでしょう。定型化された作業を生成AI搭載のツールで支援することで生産性を向上させる取り組みは、既に多くの企業が試みて一定の効果を実感しているところです。

2つ目に挙げられるのは、スターバックスの事例で述べたような、マーケティングにおける「高度なパーソナライゼーションによる顧客体験の進化」です。これまでのWebサイトでのレコメンデーションといえば、「この商品を買った人はこんな商品にも興味を持っています」といった大雑把なものでした。今後はAIを活用してその顧客に関するデータを総合的に分析したり、チャット形式の対話を通じてインサイトを引き出したりすることで、より精緻なレコメンデーションが行われるようになるでしょう。

そして3つ目が、AIの行ったデータ分析からインスピレーションを得て、「人がクリエイティビティを高めること」です。AIは人間には全容を把握しきれない多くのデータから、「この人は今こんなことを求めているのではないか」「こんなライフステージにいるのではないか」といった推定を瞬時に行うことが可能です。それをそのまま利用するのではなく、AIの推定を手がかりに人間がさらに深く洞察していくことで、よりよいサービスを創出できるようになると私は期待しています。いわば人とAIが効果的に「共創」することが、今後のビジネスを活性化させるのです。

図 顧客の購入体験をパーソナライズしている

「人とプロセス」に重点を置いたビジネスの再設計を

BCGはAI活用において、「10:20:70の原則」を提唱しています。 これは、AIに関する取り組みの10%を「アルゴリズム」に、20%を基盤となる「データとテクノロジー」に、70%を「人とプロセス」に集中させるべきという考えを示すものです。私たちの分析では、組織が「人とプロセス」に7割のエネルギーを費やした場合にAI活用の効果が最も高まることが分かっています。

つまり、どれほど高度な生成AIのプラットフォームを導入しようと、それまでと同じ体制やプロセスで業務を続けたのでは思うような効果は得られないのです。重要なのは、幅広いリスキリングや業務プロセスの見直しによってビジネスを再設計すること。それをしっかり行ったうえで生成AIを活用すれば、マーケティングコンテンツの開発をはじめとする幅広い分野で30~50%もの生産性向上がもたらされると見ています。

PCやスマートフォンのように、AIも近い将来、あらゆる業界・業種の業務にとってなくてはならない当たり前の存在として定着するのではないでしょうか。もしそう考えるのであれば、AI活用を自社のビジネスのロードマップに早い段階から組み込む必要があります。その際には「10:20:70の原則」を意識して「人とプロセス」に重点を置き、組織や業務体制の見直しを図ることをお勧めします。

<スピーカー>

石附 洋徳 氏
石附 洋徳 氏

ボストン コンサルティング グループ(BCG)
パートナー & アソシエイト・ディレクター

博報堂、カシオ計算機でCDO兼CIOを務め、2023年にBCGに入社。マーケティング・営業・プライシンググループのコアメンバーで、デジタル・マーケティング、EC、CRMのエキスパート。マーケティング領域でのデータやデジタル技術を活用した事業変革、新規サービス開発などを得意とする。また、製品開発、サプライチェーン・マネジメント(SCM)、インフラ、セキュリティに至るまで幅広い領域でのデジタルトランスフォーメーションの経験が豊富。

 

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