- 左
- キューサイ株式会社
上席執行役員副社長 営業戦略本部長
山田 淳史氏 - 右
- キューサイ株式会社
執行役員 営業戦略本部副本部長
小森谷 裕之氏
TV通販で築いた成功モデルが、広告環境の激変と定期通販の構造的な限界によって転換点を迎えている。多くのDtoC企業が同じ課題に直面するなか、「ウェルエイジング」を企業ミッションに掲げるキューサイは、AIとデータを軸にしたマーケティング変革でその壁を乗り越えようとしている。CDPによる顧客理解の深化に加え、生成AIエージェントをいち早く現場に実装し、クリエイティブ生成からKPI分析まで意思決定を支える仕組みを築いてきた。
キューサイ株式会社 上席執行役員副社長 営業戦略本部長の山田 淳史氏と執行役員 営業戦略本部副本部長 小森谷 裕之氏が、スピードと挑戦を軸に、AI×データで顧客体験の進化に挑むキューサイの取り組みについて語った。
約80%削減
AIエージェントを活用した分析自動化により、従来必要だったレポーティング工数を約80%と大幅に削減。その分をより深い分析と顧客理解の高度化に充てることが可能になった。
コラーゲン健康食品通販売上18年連続No.1(※1)
コラーゲン健康食品で積み上げてきたブランド資産と顧客基盤を起点に、"隣り合わせの市場"を辿り続ける商品開発戦略で新たな顧客ニーズを開拓していく。
ビフォアAI/アフターAI
AIエージェントをKPI分析・クリエイティブ生成・経営判断支援に実装し、経営と現場が共通データで素早く動く「再現性ある意思決定」の組織づくりを加速させている。
目次
TV通販依存の単品定期モデルからの脱却と、見えてきた4つの課題
創業60周年を迎えたキューサイ株式会社。「まず〜い、もう一杯!」のフレーズで知られる青汁のイメージが強いが、現在はコラーゲン健康食品を中心とするヘルスケア事業と、「コラリッチ」ブランドによるスキンケア事業の2本柱で成長を続けている。同社が掲げるのは「人生初を、いつまでも。」というコーポレートスローガンとともに大切にしている「ウェルエイジング」というキーワードだ。年齢を重ねることをポジティブに捉え、心も体も活力のある人生を1人でも多くの人に届けることを目指している。
しかし、その理想を実現するためには、まず顧客をより深く理解することが不可欠だと、上席執行役員副社長の山田淳史氏は語る。
「ウェルエイジングのすばらしさをお客様に体験していただくためには、私たちがお客様のことをもっと深く理解しなければならない。どうすればもっと前向きな一歩を後押しできるのか、それをデータとテクノロジーで実現していく。これがキューサイの目指す姿だ」
(山田氏)
この目指す姿に向けて、この5年間で明確になってきたのが、事業構造上の課題だ。これまでの成長を支えてきたのは、月に数千回オンエアするインフォマーシャルとコールセンターを軸とした単品定期通販モデルだったが、テレビの視聴率低下に加えてオンエア枠の値上がりによる獲得コストの高騰が続いている。さらに、定期購入に依存したモデルでは解約とともにLTVが終わってしまうという構造的な問題も抱えていた。
こうした状況を踏まえ、同社はサステナブルな成長に向けて4つの課題を設定した。ひとつ目は、「定期契約だけではない顧客との関係性の構築」だ。定期購入の継続は解約とともに関係が途絶えるうえ、物流コストや原料価格の上昇によって収益性が悪化しやすいという課題もある。これを回避するには、複数商品をひとりのお客様に手に取っていただくことが重要であり、そのためには一人ひとりに合ったアプローチと、そこにかけるコストの最適化が求められる。ふたつ目は、「マーケティングプロセスの仕組み化」。再現性のあるマーケティング効率を最初から設計できる環境が必要であるとする。
3つ目は、「既存の強みを生かした商品開発」だ。例えば、18年連続で通販売上1位を誇るコラーゲン健康食品を持つ同社では、「既存のお客様の約半数以上が頻尿など泌尿器系のお悩みも抱えていることがわかっている。これまで培ってきた顧客基盤というインフラを生かして、隣り合わせの市場を辿り続けることで、ヒット率の高い商品開発ができる」(山田氏)と考えている。そして4つ目が、「顧客接点ごとの柔軟な投資配分体制の構築」だ。予算の枠に縛られることなく、その時々の状況に応じてスピーディーに意思決定しながら投資をコントロールできる環境構築が、大きな課題として定義されていた。

Growth OS(グロース オーエス)という概念で、データとAIを一気通貫に
これらの課題を抜本的に解決するために立ち上がったのが、AIとデータ活用による全社改革だ。その中心的な役割を担うのが、執行役員の小森谷裕之氏が主導する「Growth OS」という考え方だ。
「システムもデータもサイロ化していることは大前提として、テレビ通販、EC・リテール事業、商品開発やプロモーション、さらには管理会計の領域も含めて、事業に本当に必要なデータを明確にし、各種システムのデータを集約するとともに、必要であればマスターデータもトランザクションデータも事業サイドで作ってしまおうという考えで進めている」
(小森谷氏)
実は、小森谷氏がキューサイに入社した2024年当初、社内ではTreasure DataとDWH(データウェアハウス)の違いが経営層に十分理解されておらず、CDPの活用自体が危うい状況にあったという。
「導入しても、マーケティング部署の一部の担当者が勘と経験と度胸(KKD)で属人的に動くだけでは意味がない。データが集まってもサイロ化したシステムでつながらない、あるいはデータ量が多すぎて分析以前に溺れてしまうという問題は、多くの企業が陥る典型的な課題だ」
(小森谷氏)
こうした状況への処方箋として設計されたのがGrowth OSだ。データ中心設計のもと、CDP(Treasure Data)、マーケティングシステム、PL管理を一本化し、顧客理解→施策展開→経営インパクト確認→学習という一連のループをどれだけ高速で回せるかが、成功確率を科学的に高め続けることにつながると小森谷氏は強調する。経営と現場がバラバラに動いていては時間がもったいないという山田氏の強い問題意識とも一致しており、共通データを基盤に経営と現場が素早く判断・行動できる組織づくりを目指している。
「万が一判断を誤った際にも早期に検知してリカバリーできる。それが、データを起点に動く組織の最大のメリットだ」
(山田氏)

AIエージェントが経営と現場をつなぐ
Growth OSの中核として機能しているのが、Treasure DataとAIエージェントの組み合わせだ。現在、キューサイでは顧客理解から施策実行を中心に複数のエージェントを開発・運用している。代表的なものが「KPI分析エージェント」と「メール文面作成エージェント」だ。
AIエージェントの重要な役割が、経営と各担当者の「壁打ち相手」として機能することだ。従来は、経営が数値を必要とする際に各担当者へ問い合わせ、さらにその部下へと依頼が連鎖するという非効率な業務が常態化していた。AIエージェントの導入により、経営はエージェントと直接対話しながら数値の確認や示唆を得られるようになり、各担当者もそれぞれの業務の補助者として活用することで業務効率が向上する。数字の確認にとどまらず、要因分析や課題解決のための施策案についても壁打ちを通じてまとめることが可能になっている。

KPI分析エージェントでは、「24年12月の商品別の売上を教えてください」「コラリッチジェルの昨年との売上比較をしてください」といった自然言語での問いかけに対して、グラフや滝グラフ、要因分析などが自動的に生成される。
「全体を俯瞰しながら、どんどん深掘りしていける。AIであるため、何を聞いても怒られることはなく、恥ずかしがらずに質問できるというのも利点のひとつだ」
(小森谷氏)
また、メール文面作成エージェントでは、ターゲットセグメントや訴求ニュアンスを入力するだけで、薬機法などの規制を考慮した文面が自動生成される。「原案がしっかり先に出てくる上に、成功事例から学んだ状態で作られるので、より効果の高いものが生み出される」(小森谷氏)。さらに、配信後のメールの開封率・クリック率・CVRをセグメント別に分析するエージェントも稼働しており、配信直後からリアルタイムに結果を確認しながら示唆を得ることができる。
一方で、「BIはもういらないのか?」という問いに対して、小森谷氏は明確に「まだ必要」と答える。
「BIは視覚的な全体把握とトレンド監視に適しており、手触り感のある数字を扱うのに向いている。AIはそこからさらに深掘り・分析・仮説検証を行う役割だ。BIとAIはどちらか一方ではなく、両方を有効に活用することが重要である。AIでの分析が進めば進むほど、BIダッシュボードも進化し、データ環境が成長し続ける好循環が生まれる」
(小森谷氏)

AI全社改革を成功させる3つの要因
ここまでの取り組みを踏まえ、山田氏はAIを企業全体の改革として推進するための成功要因を3点にまとめる。
「最も重要なのは、組織と思考のアップグレードだ。これまでの成功体験や無意識の意思決定を否定するのではなく、AIを前提として意思決定の視点・観点を統一していくことが鍵になる。AIを使って社員一人ひとりの仕事が顧客起点になっているかどうかを常にチェックし、無意識のうちにマーケティング発想に変わっていける文化の醸成が非常に重要だ」
(山田氏)
単品通販をメインとしてきた事業構造では、社内にマーケティング発想が根づきにくいという背景がある。属人的な意思決定からデータに基づく再現性のある判断へ——この転換は、ツールの導入だけでは成し遂げられない。「AIを前提に意思決定の観点を統一することで、全社で勝ち続けられる組織に変わっていける」(山田氏)。と、変革への確信を語る。
2点目はナレッジの蓄積だ。AIを活用しても、積み重ねられた知識・経験がなければ精度の高い判断は生まれない。「AIを使おうが使うまいが、ナレッジをしっかり蓄積していくことの重要性は変わらない」(山田氏)。施策の成功・失敗を問わず記録・構造化し、次の意思決定に活かし続けることが、組織全体の学習ループを加速させる基盤になるという考えだ。
そして3点目が人材育成だ。AIエージェントの開発・運用を外部に委ねるのではなく、できる限り内製化する方向で進めており、社内育成への投資を積極的に行っていくという。「AIを前提に意思決定できる人材を自分たちの手で育て、外部環境の変化に柔軟に対応できる組織に変わっていくこと——この3点が達成されたとき、キューサイは本当の意味でのマーケティングカンパニーになれていると思う」(山田氏)。
こうした取り組みの成果として、分析工数は約80%削減できる見込みが立っており、施策の質の向上や顧客理解の深化も期待できるという。「現在の業務との比較でこの数字だが、削減した工数の分だけより深い分析に充てられるようになるので、施策効果まで含めればさらなる改善が見込める」(小森谷氏)。
ゼロパーティーデータと外部連携で、顧客理解をさらに深く
今後の展望について、小森谷氏はゼロパーティーデータと外部パートナーデータの活用強化を挙げる。
「アンケート基盤やコミュニティサイトのデータから、より深い顧客理解と施策応用を検討したい。また外部パートナーのデータも連携させることで、自社だけでは知り得ない情報も含めた顧客理解をさらに深めていきたい」
(小森谷氏)
AIエージェントはまだ完璧なものではないとしながらも、「ビフォアAI・アフターAIと言われるくらい、この変革期にAIとの付き合い方も含めて経験を積み上げ、成長のループを加速させていきたい」(小森谷氏)と、変革への意気込みを語る。

そして山田氏は、最終的に同社が目指す姿をこう語る。
「私たちが向かっているのは、AIとデータを基盤に顧客視点で事業を再設計するマーケティングカンパニーだ。 最終的には、お客様と一緒に価値を作り、社会課題を解決していくような存在を目指している」
(山田氏)
広告環境が激変し、定期通販モデルの限界も見え始めた今、キューサイはAIとデータを軸に顧客体験の再設計に挑んでいるのだ。
※1 2007年度~2024年度 コラーゲン健康食品通信販売市場 メーカー出荷金額ベース シリーズ製品合算値 (株)矢野経済研究所調べ 2026年1月現在 ※サプリメント形状のみ ※従来品も含む ※本調査結果は、定性的な調査・分析手法による推計である。
