SOMPOひまわり生命保険株式会社
AIエージェント活用への再挑戦。SOMPOひまわり生命保険が語る「データの民主化」のリアル
左)SOMPOひまわり生命保険株式会社
インシュアヘルス開発部 コミュニケーション開発グループ課長
山下 陽氏
右)SOMPOひまわり生命保険株式会社
インシュアヘルス開発部 コミュニケーション開発グループ
高橋 基氏
SOMPOひまわり生命保険は、「ウェルビーイング応援企業」をビジョンに掲げ、保険と健康サポートを組み合わせた独自の概念「インシュアヘルス」を推進する。万が一に備えるだけでなく、万が一を未然に防ぐことを目指し、保険会社としての新たな価値創出に挑戦している。
取り組みを支えるうえで欠かせないのが、顧客データの活用だ。同社はTreasure AIを駆使し、インシュアヘルスの実現に向けデータ活用を推進する。その中で現在注力しているのが、AIを活用したデータ活用の効率化、および民主化だ。2026年4月のTreasure AIのAIエージェント機能導入に先立ち、実質2カ月間のPoCを実施した。
評価軸を定めたAIエージェントの導入
失敗経験を踏まえた伴走型のPoCを実施。事前に評価軸を定め中間評価、最終評価を行った
ROI、分析の自己完結の目標値を達成
分析作業の効率化だけでなく施策への活用まで完結した点を評価
データ活用の民主化を推進
専門部署への依存を減らし、現場のユーザーが自らデータにアクセスし、分析や施策立案に活用できる体制へ
目次
PoCでAIエージェント活用の可能性を検証
インシュアヘルスの実現に向けたデータ活用の基盤となるのが、保険データだ。氏名や住所、保険種類や保険料といった基本情報に加え、その変更、追加契約、給付金の支払いに関する情報などを管理している。
しかし、保険に関する顧客との接点は年に数回程度に限られ、それだけで継続的な健康支援につなげることは難しい。

そこで同社は、デジタル上の顧客接点として「MYひまわり」アプリを展開。健康診断結果とAIによる健康リスク予測や、ヘルスケアアプリと連携した歩数管理、それらと連動するポイントプログラムなどを提供している。
日常的な接点を通じて、保険データに加えて健康データも取得できるようになった。これらをTreasure AIに集約し、AIエージェントを活用して顧客理解を深めることで、一人ひとりに応じた健康サポート施策につなげている。
こうした取り組みの中で、社内でデータ分析の依頼が増加していた、と高橋氏は課題感を語る。同社は生命保険会社であり、データ分析の専門人材は限られている。社内だけで分析業務をまかないきれず、その多くを外部へ委託していたという。結果、コストが増加するとともに、分析業務が滞留し、施策の立案・実行のスピードにも影響が生じていた。
今回のAIエージェント導入は、外部委託していた業務の一部をAIで効率化し、スピードとコストの最適化を図ることが目的だ。また、施策実行後の分析やデータへのアクセスを社内のユーザーが自ら行える環境を整備することで、PDCAサイクルの迅速化も目指している。
PoCの実施にあたっては、社内でトレジャーAI主催の「AIブートキャンプ」を開催した。AIエージェントの基礎知識や活用方法、ビジネスへのインパクトなどについて、勉強会形式で理解を深めていった。

また高橋氏は、あらかじめPoCの評価指標を定め、1カ月ごとの中間評価と3カ月後の最終評価を実施するなど、評価プロセスを重視した。実は同社は以前にもTreasure AIのAIエージェント導入を試みたものの、「大失敗」(高橋氏)に終わっている。
「先進的な機能に飛びつき、社内で運用できる準備が整っていなかった」と山下氏は振り返る。反省を踏まえ、今回は社内調整やデータ整備を進めたうえでPoCに臨んだ。

最終評価について山下氏は、「全体的には非常によい結果が得られた」と語る。なかでも大きな成果として挙げたのが、ROIの目標値を達成できたことだ。
さらに、「個人的にうれしかった」と振り返るのが、「分析の自己完結数」が目標を大幅に上回った点だ。「AIエージェントによって分析作業の時間を削減できることは想像していたが、ユーザー自身が目的を持って分析し、それを施策に活用するところまで到達できるかは疑問だった」と高橋氏は明かす。

失敗の反省を活かした伴走型のPoC運営
続いて高橋氏は、PoCにおける自身の関わり方に話を移した。
高橋氏が特に注力したのは、「定期的なフォローと伴走支援」「AIエージェントの活用提案」の2点だ。前回の取り組みでは、導入後のフォローが十分ではなかったことを反省点としており、今回は相談時間を設け、現場での分析設計や実際の分析業務まで踏み込んで支援したという。
また、AIエージェントの活用提案においては、自身のデータ活用に関する知見を生かしながら、AIエージェントの有用性やユーザーの課題に対する解決策を、積極的に提案していった。

PoC期間中は、データ分析の依頼があった場合でも、AIエージェントで対応可能な内容については自ら対応せず、現場での活用を促したという。こうした取り組みにより、「データ分析の民主化が進展した」と手応えを示す高橋氏。現在では、ユーザー自らがデータにアクセスし、分析やターゲットリストの作成を行うスタイルが定着しつつあるという。
一方で、分析の質がユーザーのスキルに左右される点は課題として残った。分析の精度や結果の解釈、そこから生み出されるアウトプットには、明確なばらつきが見られたという。
「AIエージェントが作業を代替するようになっても、人間によるデータ理解や分析アプローチが重要だと改めて感じた」
(高橋氏)

またユーザーからは、「分析作業を自ら一気通貫で行えるようになり、リードタイムが短縮された」「AIエージェントが分析結果のグラフ化まで完結してくれるのが便利」といった評価の声が上がった。
一方で、利用ルールやリスク回避のための線引きについては、課題を指摘する声もあった。AIエージェントが出力したデータの正確性をどのように担保するのか、また経営会議や対外公表での利用をどこまで認めるのかといった点については、明確な基準が求められる。
PoCで見えた次の課題と、さらなる顧客理解への挑戦
PoC終了後の2026年6月現在、山下氏らは5つのAIエージェント群を運用している。

第一は「クエリ生成」エージェントだ。自然言語でSQLクエリを生成できるため、Treasure AI上でのターゲットリスト作成など、比較的シンプルなデータ活用であれば、専門部署に依頼することなく実行できるようになる。
第二は「定型レポート生成」エージェントだ。KPIをはじめとする各種指標を所定のフォーマットでレポート化する。必要に応じてワンクリックで詳細データを確認できるため、より深い分析にもつなげやすい。

第三は「過去レポートDB」エージェントだ。週次・月次で生成されるレポートを分析ナレッジとして蓄積し、施策検討や分析・報告内容の検索を効率化する。なお、この仕組みには、分散した情報の集約に強みを持つGoogle NotebookLMを活用している。
第四は「カスタム分析」エージェントだ。テーマを与えるだけで、分析設計から実行、レポート作成までを一貫して行う。「専属アナリスト」としての役割を担い、顧客分析や戦略立案、VOC分析、N1分析などでの活用を想定している。

第五は「コンシェルジュ」エージェントだ。AIエージェントの利用履歴をはじめ、BIダッシュボードや社内の表計算ファイルなど、多様なツールや資料を横断的に検索できる仕組みを整えた。
一方で山下氏は、「PDCAの中でもDO、ACTの実行部分については、まだAIエージェントを十分に活用しきれていない」と現状の課題を語る。CHECKにあたる検証・分析の領域については、「手厚くフォローできている」と自信を示した。

今後の展望については、「分析設計力の強化」「顧客解像度の向上」「ガバナンス」の3点を挙げた。
「AIエージェントの活用においても、人の分析力や設計力が重要であることをPoCで痛感した。ばらつきをなくすための支援や、データ品質・利用ルールの整備も引き続き進めていく必要がある。」
(高橋氏)
また、AI活用と並行して、外部データを活用した顧客理解の高度化も見据える。例えば、MYひまわりアプリで把握できる日々の健康行動と、外部企業が保有する食品などの購買データを組み合わせれば、顧客理解をさらに深められる可能性がある。高橋氏は「健康行動促進のためのCRMを深めていきたい」と意気込みを語った。
