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2022/05/12

金融業界の環境変化と、銀行の取り組み実例から考える「顧客に届けるべき新しい体験」

Treasure AI Treasure AI
金融業界の環境変化と、銀行の取り組み実例から考える 「顧客に届けるべき新しい体験」

社会全体のデジタルシフトが急速に進み、金融業界を取り巻く環境も変化しています。目まぐるしい変化の中で、銀行が届けるべき顧客体験はどのように変わっていくのでしょうか。

Japan Digital Design株式会社(以下、JDD)代表取締役CEOの河合祐子氏と株式会社三井住友銀行(以下、SMBC)リテールIT戦略部の大内伸幸氏に、事例を交えながら銀行の取り組みをお聞きします。モデレーターはトレジャーデータ株式会社の堀内健后が務めました。

※本記事は、日本経済新聞社、金融庁主催「FIN/SUM2022」(2022年3月開催)でトレジャーデータ株式会社が行ったセッションをもとに編集しました。登壇者の肩書などは、イベント開催当時のものです。

JDD河合氏が見る、金融業界に訪れた環境変化とは

――

河合さんが代表を務めるJDDは、三菱UFJフィナンシャルグループの一員です。大内さんは三井住友銀行からお越しいただきました。Treasure Data CDPの活用方法をご紹介いただくなど、PLAZMAにも何度か登場いただいています。
本日は2つの金融機関で働くお二人に、業界における変化についてお聞きします。よろしくお願いします。

早速ですが、河合さんはどのような環境変化が起こっていると感じていますか?

河合

端的に言えば、金融業界にも「データの時代」が到来しています。スマートフォンの保有率が大きく伸び、顧客がオンラインで行動する機会が増えました。取得できるデータの質や量がまったく変わってきていると感じています。

――

CDPに蓄積されるデータの件数もすごい勢いで増加しています。あらゆる業界でデータの質や量は変化していますね。

河合

変化したデータをどのように扱い、データをサービスにどう転換するか、また展開したサービスをどう評価するかを考えなければならない時代になりました。

金融機関が扱うデータには、顧客の金融取引のデータや属性データ、マクロ統計や金融市場のデータもあります。また、衛星データやGPSデータ、オンライン行動データなどのオルタナティブデータも最近増えてきています。

――

その膨大なデータを、どのように分析・活用していくべきでしょうか。

河合

データ分析で大切なのは「何を求めて分析するのか」です。「データがあるから分析しよう」では本末転倒ですね。私たちは「お客様を理解すること」「お客様の役に立つこと」を目的とし、需要の把握や予測、与信判断などにデータを分析・活用しています。また、データの基礎的な理解のため、各種データの突き合わせも行っています。

データを用いた顧客理解から始まり、仮説・検証→ロードマップ作成→1次リリース→再検証→2次リリース……というのが分析の一連の流れです。

――

その顧客理解に基づいた顧客体験を提供する場の一例が「Money Canvas」ですよね。

河合

はい。「Money Canvas」は、三菱UFJ銀行が2021年12月にリリースした、顧客向けの資産運用情報プラットフォームです。資産運用に関する情報提供から金融商品の購入まで、顧客のさまざまなアクションをサポートします。

ここでデータを取得し、それを元に第2次リリース、第3次リリースとグレードアップを図ります。

すべての業界がデジタルシフトする時代がきた

――

続いて、SMBCの大内さんにお話をお伺いします。データを用いて顧客体験を変えていく活動をテックR&D会社として切り出したJDDに対し、SMBCでは大内さんの所属するリテールIT戦略部が社内で行っています。

大内

顧客体験を設計する最初の企画の段階から社内のUXデザイナーに入ってもらい、取り組んでいます。

――

大内さんは、先ほどの河合さんのお話をどうお感じになられましたか?

大内

河合さんからは「金融のデジタルシフト」についてお話しいただきましたが、オフラインを主戦場にしている他の業界でも、金融と同じことが起きていると感じます。

例えば自動車業界。ひと昔前ならば、車を買うまでには販売店に何度も足を運び、店員さんの話を聞いたり試乗したりしていましたが、最近では購入をほぼ決めてから販売店に来るお客様がほとんどで、1回や2回の来店で購入を決断するケースが多いのだそうです。

――

自動車販売店への平均来店回数は2回を切っていると聞きます。 2人に1人は初回来店で「買おう」という判断をしているのではないでしょうか。

大内

金融も自動車も単価が高く、それほど簡単には購入を決断できない部類の商品です。にもかかわらず、少ない来店回数で決断に至っているのは、AIDMAモデルでいう「アテンション」や「インタレスト」はデジタルの世界で済んでいることが多いのではないかと思っています。

立場が変われば私自身も消費者なのでよく分かりますが、消費者の購買行動自体がデジタルシフトしているんですよね。タイミングやレベル感の差はあれど、どの業界も顧客行動の変化に合わせて等しくデジタルシフトしていくのではないでしょうか。

顧客にとって必要な情報を適切に届けるための3つのポイント

――

SMBCでの顧客体験向上の取り組みについてお聞かせいただけますか。

大内

お客様の課題はおそらく、今も昔も「情報」です。昔は情報量が求められていましたが、今では量が足りてきたため、情報の「質」が求められているのではないでしょうか。「この情報は信ずるに値するのか?」というのが課題になっているわけです。

金融商品は目に見えるものではないので、自分に合った商品なのかどうか分かりづらい。生活用品のように欲しいものを簡単に想起したり、気軽に購入を決断したりするのは難しいですよね。判断のためにはさまざまな情報を必要とします。

――

そこで金融機関側から信頼できる情報を提供していこう、と。

大内

はい。これまで銀行や証券会社は、オフラインでお客様にお会いして直接お話を伺い、それぞれの課題に合ったオーダーメイドの提案を行うことで、分かりづらさやハードルの高さを乗り越えてきました。しかし消費者がデジタルシフトしている今、これまで通りオフラインの接客だけでやっていけるはずはありません。
そこで我々としては、データを用いた「パーソナライズ」がマーケティングにおけるひとつのキーになるのではないかと位置づけ、取り組みを行ってきました。

――

顧客が抱える課題も、必要な情報も多様化し、個々人に合った情報を提供するのは簡単なことではないと思います。SMBCではパーソナライズ実現のためにどのような取り組みをしているのでしょうか?

大内

パーソナライズの実現にあたっては、「ニーズが発露したタイミング」「ニーズのレベル感」「提供すべき情報」の3つを正しく把握する必要があると考えています。

まずは1つめの「タイミング」。資産形成をしようと考える瞬間は人それぞれです。ニーズがないタイミングで情報提供をしてもノイズにしかなりません。

――

タイミングを読まずにメールを出しすぎてしまうと鬱陶しがられる、というのはよくありますね。

大内

タイミングが合わないのと同様に、レベル感が合わなくても刺さりません。ニーズが発露したタイミングで、レベル感に合わせた情報提供をしていくのが重要です。
その上でどんな情報を提供するのか。もちろん理想は「お客様が求めている情報」ですが、タイミングやレベル感も含め、銀行が従来持っていたデータだけでこれを把握するのは不可能なんです。

やはりどうしても、オンライン上で取得した顧客データを統合・分析して顧客理解を深める必要があります。そのためにTreasure Data CDPを導入してデータ基盤を構築しました。

「売りたいものを売る」から、顧客理解へ

河合

大内さんのお話はよく分かります。私も実体験から、金融機関の顧客理解とターゲティングに課題を感じています。

私を含め、50〜60代は退職金をもらう方がそれなりに出てくる世代です。私も1年半前に前職の退職金を受け取りました。ここには明らかに投資ニーズがありますよね。
でも、日本にはこの世代の投資ニーズに応えられる金融サービスはまだ少ないんです。退職金でちょっとした金額を受け取っている層はたくさんいるけれど、彼らを個別にトラックして最適なタイミングでアプローチすることは、今までは十分にできていないと感じます。

――

オフラインデータでは、入金履歴を見て「退職金らしきお金が入金された」と分かるくらいですね。

河合

そうです。でもその前の段階でオンライン行動のログを分析すれば、たとえば特定の商品やサービスの購入を検討しているといった推測もできますよね。
そうしたデータからピンポイントにターゲティングをした情報をプッシュすることで、顧客が望む情報を手元に届けることができ、結果として潜在的ニーズが顕在化するかもしれません。

――

先ほどの大内さんのお話にもあったように、50〜60代の「タイミング」「レベル感」「発信すべき情報」を把握して情報発信を行う必要がありそうです。

河合

レベル感についてのお話は頷きながら聞いていました。ユーザーとしては、金融機関が自身の売りたいものを売ってくるときって一番嫌だし買う気にならないんですよ。これは、まだまだありがちなアプローチですよね。

大内

その通りですね。弊社を含め、今までの金融機関では商品ベースのアプローチが多かったと思います。これからはお客様の文脈に合わせ、体験ベースで商品やサービスを提供していく必要があります。

――

文脈を考慮して情報提供をしないと、売りたいものの中からせいぜい興味に合ったものを提案するだけになってしまうんですね。

河合

これまでは「50代」のような大きな箱で括っていましたが、その人にとってジャストなタイミングは52歳かもしれないし54歳かもしれません。大きな箱ごと処理していたところへ、デジタルシフトによって取得できるデータが増えたことで、箱の中にある個々の粒にフォーカスできるようになりました。

これまで箱どころか大きな段ボールぐらいで考えていた金融業界にとっては、これはなかなかのギャップなんですよね。

顧客理解を深め、ひとりひとりに合わせた唯一の体験を

――

昨今さまざまな企業がメディア化しています。その理由のひとつ は、どんなコンテンツに触れているかを分析することで、顧客ごとの興味関心を直接知り、結果として顧客に体験として還元するためではないかと考えています。「Money Canvas」にもメディアコンテンツが入っていますね。

大内

SMBCでも「Money VIVA」というコンテンツを持っています。純粋にお客様に金融の知識を提供する啓蒙コンテンツではありますが、堀内さんがおっしゃる通り、このコンテンツを介してお客様を理解するための場でもあります。

CDPを導入したことで、メディア以外にもホームページやインターネットバンキング、アプリからのデータも収集できるようになりましたし、各支店の営業データなども統合し、顧客理解に役立てています。
お客様との接点はリアルとリモートとデジタルが絡み合っていて、扱うデータ量も膨大になります。膨大なデータをうまく使って、複雑な顧客体験を設計していくことが今後の課題です。

今あるデータの分析も大事ですが、もう少し複合的な行動データについても考えなくてはいけないんだろうなと思っています。切り口になりそうな仮説としてエンベデッド・ファイナンスがあります。

※エンベデッド・ファイナンス……非金融事業者が自社のサービス内に金融サービスを組み込んで提供すること。またはその形態で金融サービスが提供されること。

お客様はそれを金融行動とは思わずに自然と金融取引をしているような、リアルの行動と金融が不可分になっているようなデータの組み合わせ方もありえます。こうしたデータをどう扱っていくのか、考え始めているところです。

――

デジタルシフトによって取得できるデータが飛躍的に増加したことで、それぞれの顧客にパーソナライズされた体験を提供し、企業が売りたいものではなく顧客にとって必要な商品を提案する。金融業界も他のサービス業界に近づいていると感じました。
お二人とも、貴重なお話をありがとうございました。

<スピーカー>

河合 祐子氏
河合 祐子氏

Japan Digital Design株式会社 代表取締役CEO

米系金融機関市場部門、独立系シンクタンク、日本銀行(金融市場分析、金融機関リスク管理、FinTech、香港・ロンドン・高知勤務など)を経て、2020年11月にMUFG傘下のJapan Digital Designに入社。金融サービスのデジタル化案件を手掛ける。
大内 伸幸氏
大内 伸幸氏

株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デジタル推進第三グループ長

大学卒業後、2004年に三井住友銀行へ入行。企業オーナーや地権者等、主に富裕層向けのリテールビジネスを担当。2010年より現業務に従事。SFAの導入やCRMの企画・開発、デジタルマーケティング基盤の構築、データ利活用等、幅広くデジタル変革(DX)に関する業務を担っている。
堀内 健后
堀内 健后

トレジャーデータ株式会社 取締役

トレジャーデータの日本法人設立当初の2013年2月より日本の事業展開に従事しており、PRからマーケティング、事業開発まで担当している。トレジャーデータ以前は、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社(現日本アイ・ビー・エム株式会社)にて、業務改革、システム改革のプロジェクトに参画。その後、マネックスグループにて、顧客向けWebサービスの企画・開発のプロジェクトマネージャーを担当していた。外資企業から日本企業、大企業からスタートアップ、など幅広い環境で幅広くキャリアを経験している。

 

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