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2022/01/25

顧客と企業が目指す「真のカスタマーサクセス」とは

Treasure AI Treasure AI

「カスタマーサクセス」という概念は、今やBtoB/BtoCを問わず、さまざまな業界で用いられるようになりました。

数多くの企業に伴走してカスタマーサクセスについて考えてきた株式会社顧客時間(以下、顧客時間)共同CEOの奥谷孝司氏と岩井琢磨氏が、

WHY なぜ今、カスタマーサクセスが注目されるのか
WHAT  カスタマーサクセス とは何か
HOW どのようにカスタマーサクセスを実現するのか

の3つのポイントで「カスタマーサクセスの本質」を紐解きます。

※本記事は、トレジャーデータ株式会社が主催した「PLAZMA 21」(2021年12月開催)をもとに編集しました。

奥谷 孝司氏
奥谷 孝司氏

株式会社顧客時間
共同CEO 取締役

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員 / Lazuli株式会社 顧問。 1997年良品計画入社。店舗勤務や取引先商社への出向(ドイツ勤務)、World MUJI企画、企画デザイン室などを経て、2005年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。 2015年10月にオイシックス・ラ・大地に入社し、専門役員/COCO(チーフ・オムニ・チャネル・オフィサー)に就く。 2017年にEngagement Commerce Labを設立。 2020年からLazuli株式会社顧問。 2010年3月早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。2021年3月一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程単位取得満期退学。 著書に『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)がある。日本マーケティング学会理事。
岩井 琢磨氏
岩井 琢磨氏

株式会社顧客時間
共同CEO 代表取締役

1993年博報堂DYグループに入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランドコンサルタントなどを経て、2012年にコーポレート・コミュニケーション・センターのセンター長に就く。製造業、流通サービス業界を中心に、部署横断型の事業変革プロジェクト、企業ブランディングおよび企業コミュニケーション設計プロジェクトを数多く手がける。2018年に顧客時間を設立し、共同CEO代表取締役に就く。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。 著書に『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)、『物語戦略』(共著、日経BP社)、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(共著、日本経済新聞出版社)、『オムニチャネルと顧客戦略の現在』(共著、千倉書房)、『職人軍団、教科書なきイノベーション戦記』(企画、日経BP社)がある。日本マーケティング学会理事。

WHY:なぜ今、カスタマーサクセスが注目されるのか

なぜこれほど頻繁に「カスタマーサクセス」という言葉が使われ、注目されるようになったのだろうか。その背景には「リテンションモデルの台頭」があると岩井氏は言う。

企業の変革の中で台頭してきた「リテンションモデル」

我々はデジタル技術によって世の中が大きく変革するデジタルイノベーション(DI)の時代に生きている。早稲田大学ビジネススクールの内田和成教授が提唱するイノベーションのトライアングル(下図左)によると、ビジネスに変革をもたらすドライバーは「技術革新」「構造変化」「心理的変化」だという。

社会やビジネス全体の変革は、「技術革新」だけでなく、社会や業界の構造が変わる「構造変化」、顧客の心理が変わる「心理的変化」も相互に影響して起きるという考え方だ。

いま起きているDI(デジタルイノベーション)もこれに当てはまるとすれば、デジタル技術という技術革新だけではなく、同時に社会のデジタル化によって業界構造や顧客心理が変わっていく。つまり結果として、企業にとっての競争環境が大きく変わるということだ。「顧客と常時つながれる状態」が当たり前になるデジタル社会が到来する中で、企業はDXというチェンジマネジメントを実行し、自己変革を図ることになる。

そうした中、企業の新しい戦い方として台頭してきたのがリテンションモデルだ。リテンションモデルとは、顧客とのつながりを保持・強化し、サービスを継続的に提供することでLTVを追求するビジネスモデルを指す。

リテンションモデルが台頭すると、なぜカスタマーサクセスに注目が集まることにつながるのか。それはカスタマーサクセスという「顧客にとっての価値」こそが、リテンションモデルの核であるからに他ならない。

顧客にサービスを使い続けてもらうためには、その顧客にとっての成果や成功を実現し続けなければならない。顧客はそこにサービスの価値を見出す。その実現すべき成果や成功がカスタマーサクセスだ。

リテンションモデルのビジネスが備える4つの要件

リテンションモデルは以下の4つの要件を備えていると岩井氏は話す。

1. [モノ]だけではなく[成果]に対する顧客価値
2. 常につながる顧客接点
3. 常に最適化される顧客提案
4. データに基づく顧客理解

1の「成果に対する顧客価値」がすなわちカスタマーサクセスだ。物やサービスを提供するだけではなく、その結果として成果をもたらすところまで企業がコミットする。 2の顧客接点は双方向であることが大切だ。企業から顧客にいつでもアプローチできるだけではなく、顧客から企業に対してもサービスの内容変更や解約をいつでも申し込めなくてはならない。 3は成果を出すための提案を顧客それぞれに最適化する仕組みを持っていることを指す。そしてそのためには、4のデータに基づく顧客理解が必要になる。

リテンションモデルを採用する企業の例:ペロトン(PELOTON)

リテンションモデルのビジネスを行う企業の実例として、岩井氏らはペロトンを挙げた。

ペロトンはニューヨークに拠点を置くフィットネス機器の販売会社だ。オンラインフィットネスが人気で、トレーニングマシンの販売とトレーニング動画のサブスクリプションを掛け合わせ、コロナ禍においても成長を続けている。

ペロトンのサービスはトレーニングマシンという「モノ」だけではなく、「心身の健康」さらには「ベストな状態に向けて常に励まされる」という状態に顧客価値を置いている。その価値を実現するために、顧客理解に基づいた最適なフィットネスプログラムを提案し続け、顧客のリテンションを実現している。

リテンションモデルを採用する企業の例:ウォルグリーン

新興のオンラインビジネスだけでなく、実店舗を展開してきた小売企業でもリテンションモデルの考え方が取り入れられ始めている。その一例がアメリカの大手薬局チェーン、ウォルグリーンだ。

アメリカでは薬局で薬剤師がワクチンを接種することが可能で、ウォルグリーンも2021年5月までに2,000万回の新型コロナワクチン接種を行ったと発表している。もちろんウォルグリーンのワクチン接種体制はコロナ禍で急遽整えられたものではなく、2012年には既に全8,000店舗でインフルエンザワクチンを接種できる体制を整えていた。医薬品という「モノ」を販売するだけではなく、「健康で居続ける」というカスタマーサクセスを見据えていた。

このモデルをロイヤルティプログラムの刷新によりさらに強化。顧客ごとの行動をより的確に把握して、提案につなげるモデルを進化させた。コロナ禍ではUberと提携してワクチン接種のための送迎サービスを開発し、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)対応を進化させ、オンラインでの健康相談サービスも強化した。デジタルの活用による接点・提案・理解の強化によって、顧客ひとりひとりに健康というカスタマーサクセスをもたらし続け、顧客とのつながりを強化している例だ。

WHAT:カスタマーサクセスとは何か

売り手である企業側はどうしても、商品(モノ)だけの発想から抜け出てサービスを包含して考えたとしても、それらがどのような価値を「提供するか」を中心に考えがちだ。しかし、商品やサービスが機能的に提供する価値は「顧客にとっての成果」とイコールではない。

だからこそ、発想の手順としては、顧客にとっての成果・成功とは何なのかを考えるところから始めるのがカスタマーサクセスの考え方だ。「ドリルを買いにくる人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という有名な言葉を例にすると、「穴をあけられる」のは確かにドリルの提供価値と言えるだろう。
しかしそれだけではなく、「顧客は何のために穴をあけるのだろう」「穴をあけることによって何が起こったら顧客にとっての成功と言えるのだろう」と顧客価値を考えるところから始めるのが、カスタマーサクセスの第一歩だ。そのために自社はもっと何をすべきなのか。その発想を持つことが、自社の変革につながっていく。

モノの機能だけではない、3層の顧客価値

奥谷氏によると、カスタマーサクセスを考える際には「顧客にとっての価値を3回考える」ことが大切だと言う。顧客時間では、顧客価値を下図のような3層構造で考えている。

商品やサービスが提供する「機能価値」、その機能によって得られる「体験価値」、そしてリテンションの動機となる「つながっている価値」。自社の顧客にとってこの3つの価値は何なのかを考えることで、顧客に提供できる成果・価値が明確になってくる。

例えばこの3層構造を使って、ルルレモンの顧客価値を解釈してみよう。ルルレモン・アスレティカ(以下、ルルレモン)は、元々北米のヨガウェア販売会社だった。2020年にホームフィットネス用の鏡型デバイスを提供するミラー社を買収し、オンラインフィットネス事業にも進出した。

ルルレモンが元々提供していた機能価値は、運動に適した衣類などの“Right Tools”だ。さらに店舗でヨガ教室を開催するなど、運動を楽しむ人達のコミュニティを作り、“Community Hub”としての体験価値も実現してきた。しかし顧客が自宅に設置する「ミラー」を手に入れたことで、さらにその上の常時人々を励まし続ける“Empowering People”を実現しようとしていると考えられる。これが顧客にとって「ルルレモンとつながっていることにより得られる価値」であり、カスタマーサクセスと言えるわけだ。

コロナ禍の2020年にオンラインフィットネスを始めたのも、この顧客価値を念頭に、さらに自社の事業を進化させた結果である。つまり顧客価値は、それを実現するための事業変革の原動力になる。

顧客価値を考えるには、まず「つながる価値」から

カスタマーサクセスに近づくには、先程の図の一番上の「つながっている価値」から下へ向かって考えるとよい。顧客と常時つながれる状態が当たり前になった現在では、つながり続けたいと思わせるだけの価値を顧客に提供しなくてはならないからだ。

先に紹介したペロトンも「ベストな状態に向けて人々を励まし続ける」という顧客価値を起点に、IoTデバイスのロードバイク等の「モノ」の機能価値を開発している。つながっている価値から考えることで、商品だけにとらわれず、顧客がそれを使う場所などを含めた取り組みを生み出している。

HOW:どのようにカスタマーサクセスを実現するか

下図は、デジタルを前提とした事業システムに必要な要素と、そのつながりを図示したものだ。実際に顧客とつながる顧客接点を中心に置き、関係する要素が周囲に配置されている。各要素がシステムとして連携し、最終的に右側の提案や成果につながるという流れだ。

さらに、カスタマーサクセスにあたる顧客価値と、それに直接的に関連する要素をマーキングしたのが下の図だ。顧客価値から、どういう顧客にとってのカスタマーサクセスを目指すのかという顧客戦略と、リテンションモデルの要件として挙げた顧客理解や顧客提案の在り方が導かれる。

カスタマーサクセスを実現するためにこれらの要素をどのようにすべきか考えていく上で、特に鍵となるのが顧客戦略だ。「顧客戦略を立てないことにはカスタマーサクセスに近づけないのではないか」と奥谷氏は話す。

誰を顧客とするかという顧客戦略は、3層構造の顧客価値の設定と直接的に繋がっている。さらに顧客戦略と顧客価値を実現する場として、顧客接点が機能しなくてはならない。顧客接点はオンラインとオフラインの双方を行き来する顧客のために設定し、常につながれる状態であることが理想だ。場合によっては新しく接点を作ってもよい。

顧客価値を実現できる顧客接点が明らかになれば、次はカスタマーサクセスのためにどのような提案を行うかを考える。最適な提案を行うには深い顧客理解が必要不可欠だ。データをマクロ的に見て、分析を活かした顧客理解とそれに基づく提案を行う必要がある。

1. どのような顧客価値を設定したか
2. そのためにどんな顧客接点を用意したか
3. そこを通してどんな顧客提案を行っているか
4. どのためにどんな顧客理解のシステムを持ったか

このように順を追ってそれぞれの要素を最適化していくことが、カスタマーサクセス実現の仕組みを形づくるひとつのガイドラインになるだろう。

社会全体が大きく変わるデジタルイノベーションの時代において、進化した事業モデルとして顕れたものが、リテンションモデルとカスタマーサクセスという考え方だ。
この視座を持ち、顧客と企業が目指すべき「真のカスタマーサクセス」とは何かを我々は常に考え続けなくてはならないだろう。

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